自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

エッセイ倶楽部

牧歌舎随々録(牧歌舎主人の古い日記より)

004. 形容の練習

 良い文章の練習をしようと思えば、形容の練習をすることである。その辺に転がっている石くれでも、たまたま目の前にある建物でも、何だっていい。自分の納得行くように形容してみることである。
 文は人なり、というが、あるものをどう形容するかで、最も簡便に自分を表現することができる。
 たとえば、どんなものにしろ、われわれはそれを人格的なものに見ることができる。イスでも、書物でも、樹木でも野菜でも、その気になれば何だってそれを人間のように見ることができるものである。何かを思っている人格のように思えるものである。この湯呑みはなにかこぢんまりとした可愛いことを考えているとか、あの石は何かを怒ってしかし諦めたようだとか、このハンガーは責任感がありそうだとか、感情移入はいくらでもできる。移入する感情は自分のものだから、自分を表現することになる。
 コツとしては、まず、その対象物が男か女か決めてみるのもよい。このミカンは男か女か、あの掃除機は男か女か、意外に決まらぬものなので、よく見る練習になる。