先に「社史本文の構成法」を説明しましたが、ここではそれを踏まえた上で「社史全体の構成法」について説明します。
最もシンプルな形で考えれば、社史は「社史本文」だけでも成立します。ただ、「書籍」として作る以上は、本文の前の「前付(まえづけ)」、本文のあとの「後付(あとづけ)」についても考える必要があります。まず一般書籍の「前付」「後付」の代表的なものから説明し、続いて社史という書籍特有の構成法について解説します。
前付……本扉・口絵・序文・目次・凡例など
後付……巻末資料・あとがき・索引・奥付など
(※ここで用語説明しておきますと、本扉(ほんとびら)とは、本の中味の一番初めのページで、横書きの本なら右ページ、縦書きの本なら左ページとなり、通常は本の題号(書名)が大きく入ります。凡例(はんれい)は例えば「人物や団体名への敬称を略しました」とか「紀年法は西暦を用いました」とかの表記などの方針を列挙したものです。奥付(おくづけ)は通常最後のページにある書名や発行年月日、発行者名、印刷所名などをまとめて記載したものです。)
社史全体の構成も、基本形は上記の一般的な書籍と同じですので、複雑に考えるよりシンプルな土台に工夫を加えていく作業だと思って取り組んでください。
社史の前付は一般書籍と同じもの、同じだが内容が社史特有なもの、一般書籍にはなく社史のみに特有のものなどがあります。以下に例を示します。
本扉
口絵——社屋の写真、創業者の写真など。写真でなく社是・社訓・経営理念などを載せる場合もあります。また、これらに引き続き歴代社長写真を掲載することもあります。
巻頭挨拶—— 一般書籍の「序文」にあたります。通常は会社の代表者様の挨拶文となり、題名は「ご挨拶」「巻頭言」「社史刊行にあたって」「創立○○周年を迎えて」などいろいろな表現が用いられます。
祝辞——取引先の方々やOB・OGの方々からの寄稿です。思い出話などが含まれます。
思い出のアルバム——創立以来の歴史にまつわる写真を掲載
現況紹介——現在の各拠点紹介、現役員写真など
創立○○周年記念式典写真
目次
凡例
資料編——原始定款・現行定款・会社概要・組織の変遷図・資本金の推移表・売上高推移グラフ、経常利益の推移グラフ・従業員数推移グラフ・技術用語解説・歴代役員一覧表・受賞一覧・登録特許一覧など
年表——社内の出来事・業界の出来事・社会の出来事などに項目行を分けて掲載するのが一般的です。大きな組織では社内の出来事を各拠点や部署別の項目行に分けて記す場合もあります。
編集後記—— 一般書籍の「あとがき」にあたります。多くは社史編纂委員会の代表により社史制作計画発案の経緯から制作の推進状況、苦労談、協力者への謝辞などが記され、編纂委員会名簿も併載されます。
奥付—— 一般書籍と同じですが、発行者は会社、編集制作者は「○○社社史編纂委員会」とされます。
これまで述べてきたように、社史も一般書籍と同様に「前付+本文+後付」で完結するのですが、社史が「創立○○周年記念誌」として制作されるような場合には「特別付録」的な「特別企画ページ」が加えられることが少なくありません。例えば次のようなものです。
座談会——○○周年の記念座談会を行い、その模様を誌上に掲載するものです。過去の歩みを振り返る「OB・OG座談会」が最も多いものですが、未来志向で「社長を囲む若手・中堅座談会」というのも最近よく行われており、また、その両方を行うケースも現れてきています。
トップインタビュー——社員代表などによる経営トップへのインタビューです。これはインタビューに答えるという形で経営者の歴史認識や現状認識、将来ビジョン表明のページと考えることもできます。
社員ひとことメッセージ——会社創立○○周年を迎えた社員の気持ちを紹介する企画です。この変形としては「わが社を————————会社にしたい」の「——」部分に社員が自由に書き込むとか、自社のイメージを漢字一文字で表現するとすれば「○」であり、その心は、という形で会社への想いを述べる、というような企画もあります。
上記のような特別企画ページは「社員参加型企画ページ」と呼ばれますが、このほかに長年の取引先や製品愛用者などに自社への思いを語ってもらう「取引先インタビュー」「顧客インタビュー」などもあります。
このように見ると「社史全体の構成」を考えるのは大変なようですが、こうした多種多様な構成要素をすべて含める必要はありませんし、逆に他に類例のないような自社特有のユニークな要素を加えることも可能です。ただし肝心なことは、社史は「雑誌」のように作られるべきものではないので、これらの本文以外の要素は「量より質」であることをわきまえ、候補をよく吟味して「これを取り入れたい」と思うものに絞って取り入れることです。それによって前項の「社史本文の構成法」の場合と同様に自社にとって最適の構成にすることができるのです。そうした作業は「社史づくりの醍醐味」でもありますので、慎重に、かつ意欲的に取り組んでいただきたいと思います。
実際に作られた社史ではどのような構成になっているかを、社史・記念誌の参考事例集でお確かめください。