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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

5.健全な会社組織とは-協働意識の醸成-

「組織は戦略に従う」とは、アメリカの経営史学者アルフレッド・チャドラーの言葉である。初めから組織ありきではなく、社としての経営戦略があって初めて組織は生まれるものである。これは、新規事業のことを考えてみれば容易にわかることである。

 初め、新規事業の種は、大概、1人の社員の発意によるものであるが、やがて賛同する者が集まり小グループを形成するようになる。そのうち、片手間ではできなくなり、永続性の観点からも組織化の必要性が生じてくることになる。そこには、組織成立の必然性がある。よく、経営トップが変わる度に、席替えをするように、組織を改編するケースを見かけるが、それは意味のないことである。ポストを増やすために組織を小割りすることもあるが、これは本末転倒で、組織長のSpan of control(コントロールの効く範囲)で大部屋の方が、協働意識が醸成され、自由度があるので、非常時の際に人の融通が効きやすく対応しやすいものである。また、今では少なくなったと思われるが、かつて天下り人事などで行われていたように、人のあてがいぶちに組織を作るなどということはもっての外である。いずれにしろ、組織はむやみやたらと作るものではなく、必要に迫られて作るのが原則である。

 次に、きちんとした合目的性のある組織を作っても、「仏作って魂入れず」というように、その組織に適切な人材をあてはめなくては機能しない。ならば、どのような人物をあてはめればよいかということになるが、やはり、「隗(かい)より始めよ」という言葉もあるように、言い出しっぺ、組織化する前の小グループのリーダーであった者を配するのがベストであると思う。どのような組織もスタート当初は大なり小なり苦労が待ち受けているが、自分が始めたものならば、やる気も当事者意識もあるので、そういうときに辛抱が効くものである。間違っても、それまで、一切関係がなく、当該事業に関心もない人を、一つポストが出来たからといってあてはめたのでは成功もおぼつかなくなる。

 どのような製品やサービスを扱う会社でも、事業部門の組織形態は、縦糸(地域)と横糸(分野)のマトリックスで構成されるのが一般的である。縦糸(地域)としては、各地域に支店を組織化し、横糸(分野)としては、分野別の専門部署を組織化することになる。前者には支店長、後者には分野長が、その責任者となる。いずれも組織の利益代表なので、組織を大きく伸ばし利益を上げることに躍起になる。しかし、組織だけに任せておくと、他組織にお構いなく自分の組織だけの利益を求めて突っ走る集団が出てきて、組織間での反目や過当競争が生じ、会社全体では非効率でバランスを欠き、様々なリスクを背負(しょ)い込むことになる。

 組織は、作られたと同時にその目標に向かって邁進することになるが、それ自体は至極当たり前で何の問題もないが、そういう組織が複数集まると、全体としてそれでよいのかという問題が生じてくる。即ち、各組織だけを見れば最適(部分最適)にはなっているが、総合的に見ると全体として最適(全体最適)にはなっていないという面がでてくるからである。たとえば、各組織の計画を足し合わせると、とても実現できないような計画になったり、リスクが重複され、それを回避するために莫大な予算が積み上がったり、各組織が必要と考える要員を足し合わせると総人件費が膨れ上がり経営を圧迫するといった、合成の誤謬ともいえる新たなリスクや問題が生じることもありえる。そうならないためには、ミクロな視点だけでなく、マクロな視点から全体を俯瞰し、経営資源(人、物、金)を配分する必要がある。事業部門全体としては、経営資源は限られているので、どの地域を強くするか。あるいはどの分野に重点を置くかという戦略に応じて、経営資源を配分することが重要となる。

 40代の終わり頃、事業部門のスタッフとして、縦糸(地域)と横糸(分野)との調整役を数年間担ったことがあった。スタッフとして、縦と横の組織長から構成されるバーチャルな委員会組織を立ち上げ、その事務局となり、合意形成を図るように努めた。毎年、その年度の利益計画、要員配置を決めるときは、互いの主張が折り合わず、支店長、分野長も組織代表なので一歩も譲らず、毎回、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が巻き起こった。そうなると、計画が容易にはまとまらなくなる。声が大きく見せ方がうまいなど、駆け引きや立ち回りに長けた者だけが得しないように、できるだけ公平なルールの下で調整するように心掛けたが、何の責任もないスタッフごときに指示される筋合いはないと突っぱねられることも少なくなかった。

 マトリックス組織を考える場合、縦糸(地域)と横糸(分野)は、いずれも指示命令系統が実線で結ばれているのでわかりやすく、ヒエラルキーがはっきりしている。組織長が人事権を握っていて、業績の評価者にもなっているので、パワーマネジメントが行使でき、統制が効きやすい。それに対して、スタッフの場合は、人と人とが不連続な破線で繋がっているに過ぎないので、社員に対する直接的な強制力がないため、パワーマネジメントが行使できない。したがって、各組織長との調整の結果得られた提案事項などを伝達する場合でも、その徹底度、効果の度合いは、スタッフの意欲と社内における信頼度によって大きく異なり、指示内容に関する専門性の高さと人間としての信頼感がより一層求められる職務であることを痛感した。

社史関連エッセイ挿図5

「戦略は構造化されて初めて活き、その第一歩は組織をつくることである」ということは確かであり、一旦、組織が出来れば、人が変わっても誰かが継承するので、永続性は確保されるといのが長所である。しかし、その反面、時間の経過とともに、組織は硬直化してしまうという欠点がある。組織の設立当初の本来の機能が薄れ、形骸化してしまう可能性がある。時代の流れとともに組織を変革していかねばならないのに、旧態依然のままであるという事例はよく見かける。願わくは、時代のニーズ、需要に応じて、形を変えることができる組織が望ましい。時と場合によって、再編が可能で、柔軟性がある方が、環境の変化に対応できる強い組織と言える。

 そのためには、まず、構成員である社員一人ひとりが、自分の専門も大切であるが、それに固執せず、できれば、周辺領域の仕事もこなせる、一刀流ではなく二刀流、三刀流になることが必要である。同時に、社内に、共通の目的を目指す連帯感、協働意識を重んじる企業風土があることが不可欠である。組織長の中には、自分の手柄を増やす、あるいはそのように見せかける、組織を私物化し自分の出世に利用するなど、自分の組織さえよければよいという社内政治を得意とする族(やから)をときたま見かけるが、そういう個人のエゴやわがままが罷り通り、それが野放図になってしまうと、社内に不平・不満がつのり協働意識が失せてしまう。それを防ぐには、組織の不文律を定め、何が尊ばれる行為なのか、何をしてはいけないかということを評価基準に明確化し、場合によっては牽制機能も加味して信賞必罰により統制を図る必要がある。自分以外の組織のことにも気を配ることができ、融通性があり、大所高所から全体最適を考えることができる器の大きい人が尊ばれ、協働意識が育まれる企業風土があるのが、事業環境の変化に対する耐性があり、かつ、社員が働きやすい健全な会社組織と言えよう。


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇―働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意―ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ―父からの伝言―』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』など。