更新日 2026年8月10日
「組織は戦略に従う」と言ったのは、米国経営史学の大家アルフレッド・チャンドラーであるが、企業の戦略に限らず、何かを成し遂げようとする場合は、組織をつくり担当者を決めるなど、戦略を構造化することにより、初めて実行に移すことができる。何事も何となく始まるのではなく、目標とそれに至るタイムリミットがある以上、それを責任をもって遂行する組織と担当者が必要となる。会社において、いたずらに組織をつくり、そこに人を当てはめるのはコスト増になることは確かであるが、本気で新たなことを推し進めようと思うなら、その目的のみを遂行する組織と、専任の人材が必要となる。よく、それを思いついた企画担当者に、兼務で遂行者責任を負わせる場合があるが、いくら優秀でやる気がある人であっても、片手間というわけではないが、他に本業の仕事があると二の次になってしまうのは致し方ないことである。やはり、たとえ少人数であっても、四六時中、その組織の目的と使命を意識し行動する集団がないと、人間の気持ちは揺らぎやすく、また他にやりなれた仕事があればとかく易きに流れるというのも真実なので、継続性が担保されなくなってしまうことになる。
入社5年目に、地盤を専門とする組織が新設され、その一員となったものの、初めは予定されていた仕事がなく不労状態のときもあったが、背水の陣で、何とか自分たちにあった仕事を探そうと、四苦八苦した末、それまで社内のどの部署も扱っていなかった軟弱地盤のトンネルの仕事を開拓することができた。あのとき、時代の要請に敏感に反応し、地盤専門の部署を設立しようと思いついた上司に先見の明があったと今にして感じている。
その一方で、逆説的ではあるが、時間の経過とともに、組織は硬直化し形骸化していくというのも事実である。組織は、設立以降、成果を上げるとともに発展し、成長するに従い人員も増えその規模が大きくなっていくのは必然であるが、目的が達成されたならば、既に役目を果たした組織は、その時代に応じた形に変革されていくのが望ましい。陥りやすいのは、本来の使命を忘れ、組織の存続自体が目的となり、それを維持することばかりに執着するようになりがちなことである。構成員も、初代は良いが、2代目、3代目になると、自分の保身に躍起になり、いつまでも居座るようになってくる。そうなると老害の他の何物でもなくなる。現役時代、幾つもの新設部署の立ち上げと解散に立ちあったが、業績が伸びて組織も拡大しているときはよいが、業績が低迷し撤退を余儀なくされたときは、労務問題も伴うので、一筋縄ではいかない場合が少なくなかった。
目的達成のため、組織をつくり遂行責任者を選任するなど、戦略を構造化することは「諸刃の剣」みたいなもので、状況の変化に応じて、自己変革できる余地を予(あらかじ)めルールとして残しておくことが肝心であるように思う。
※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】