更新日 2026年9月14日
仕事を進める過程で、何を決めるにしろ、十人十色というように、色んな意見の人がいるもので、なかなか一つの方向性を見つけるのは難しいものがある。自分の意見を引っ込めたり、あるいは誰かの意見に合わせなければ収拾がつかなかったりする場面は少なくないが、関係者が多く、扱う問題が難解になればなるほど、妥協点を見出すのには、時間を要するものである。まず、最初に関係者が集まって顔合わせをして話し合いをスタートさせるわけであるが、初めは大概決裂して終わることが多い。その後、そんな会合を何回も繰り返すが、それぞれがバックにある組織や集団の利益代表である場合は、物別れになることが多く、折り合いをつけ一致点を見出すのに難航する。それでも、何回かそういう話し合いを重ねるうちに、徐々に相手の人となりも分かってくるもので、お互い気心も知れてくる。そのうち、意見自体の良し悪しというよりも、誰が言っているかが問題となってくるようになり、終いには、同じことを唱えても、あいつが言っているのなら賛成するが、あいつが言っているのなら反対するというように、話し手が誰であるかが賛否の判断基準となることは往々にしてあるものである。
決め手となるのは、何をやるにしても、やる気とガッツがあり、熱意と真面目さがあるかどうかということである。熱意があり真面目に取り組む姿勢は、たとえ、その人が能力的に見て至らない点があったとしても、人の感性に直接届くので、誰の心にも深く響く訴求力があるものである。その意味で、サラリーマン根性に陥ることなく、仕事にオーナーシップを持って取り組んでいる人は周りから頼りにされるもので、けして評論家に陥ることなく、常に、当事者意識を持っていることは、他者から賛同を得る上で、何より大切なことである。ことほど左様に、仕事に対する熱意と真摯で真面目な態度は、様々な意見を持つ人がいたり、反対意見を唱える人がいたとしても最後は根負けするように、皆を納得させることができる最大公約数的なものであり、誰もの共感を呼ぶ力を持っているように感じる。
社会人駆け出しの頃、上司から上に立つ者の心得として「部下が何かを提案してきた場合、もしも、それに関する専門知識を持ち合わせていなかったら、まずは、簡単にOKを出さず、理屈をつけて反対するのが定石である」ということを耳打ちされたことがあった。「そして、その部下がそこで提案を引っ込めたら、その人の熱意はそれまでというように判断し、それでも諦めずに再三再四しぶとく改善案を持ってきたら、相手は本気であると判断できるので、それから詳細をじっくり聞いてあげればよい」ということだった。さらに、その上司が例えとして付け加えたのがプロポーズの話であった。上司が言うには「もしも、娘にプロポーズしてくる男性がいたら、初めは渋って煮え切らない態度で対応し、それでも、その男性が食い下がってきたら、娘への思いは本物で、きっと娘のことを大事にしてくれるだろうから、了承するのはそれからでも遅くない」というものだった。これらの事例はやや状況対応的で適切であるかどうかは分からないが、熱意と真面目さは、最終的に相手の心を突き動かす力を持っているということは確かであるように思う。
※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】