更新日 2026年10月27日
現役時代、30、40代の頃、丁度、日本が高度経済成長期にあったこともあり、仕事量が増え人手不足になり、毎年のように中途採用を募集したことがあった。応募してくるのは、20代後半から30代前半の人たちであったが、その際、採用部署の責任者として面接に立ちあった。応募者たちは、自分がやりたい仕事や将来の抱負を語り、最後に、こちらの質問に応じる形で、以前の会社を辞めた理由と、自分の長所と短所を説明するのが通例になっていた。そういう場面で、応募者たちが口をそろえて語っていたのは「自分の長所は積極性であるが、裏腹にそれが高じて何かに集中すると他に目が行き届かなくなるのが短所で、それが以前の会社をやめた原因なので、そんな欠点を改め是非定年まで勤め上げたい」というものであった。皆、口が達者で、やや調子が良すぎると感じた者も少なくなかったが、何しろ人手が欲しかったので、やる気さえあれば後は教育次第で何とかなると踏んで、極めて印象の悪い人以外は、原則的に採用することにしていた。
ところが、中途採用が決まってから、各部署に配属され、自分の部下になった人も何人かいたが、数年は採用試験のときの言葉通り積極的に仕事に取り組むのだが、結局、その半分以上が10年前後で会社を去っていった。そんな情報を社内で耳にする度に、半ば裏切られたような気持ちになった。当時、なぜ、中途採用者が長続きせず定着しないかと考えてみた。その結果、中途採用者はある技術レベルがあり即戦力になるから採用されるわけであるが、同時に、前の会社を辞めた共通するネガティブな理由があることに思い至った。それは、一言で言うと、人間関係が不得手であるということに尽きることがわかった。入社してしばらくは、先輩の下で自分のペースで任された仕事をしていればよいわけであるが、徐々に、何人かを束ねてチームをまとめる段階に入ると、人間関係という自分の不得意な領域を避けて通れない立場になる。そんなとき、仕事に躓(つまず)き支障をきたしたりすると、条件反射的に周囲に対して高圧的になったり激情したりするなど、生来の悪い癖が出できて、チームワークを乱し社内における摩擦も多くなり、やがて、居づらくなるというケースが多いようであった。「三つ子の魂百まで」というが、表面的には成長して変わったように見えても、つまるところは所詮変わらないものだとそのときつくづく感じた。本人たちも元の木阿弥で、また、振出しからやり直さなければならない羽目に陥ってしまったことになる。
「人は見かけによらぬもの」というように、人となりは第一印象とは違うものだし、確かに学習や訓練によって変えられる面もある。当初、飽きっぽくていい加減な男かと思っていたら、付き合ううちに意外と責任感がありよくやるやつだと見直すこともある。その一方で、逆に、不祥事を起こした部下が謝罪し心を改めたかと見直したり、悪評で噂の高かった男が会ってみて意外と嫌な奴ではないと感じたりすることはあっても、結局、後々それが錯覚であったと反省させられることもよくあることである。同様に、長く付き合った人でも、その性格は、初めて会ったときの印象とあまり変わらないことに、後年になって気づかされることも間々ある。そうなると、人は変わるというのも真実であるし、変わらないというのも真実ということになる。しかし、よくよく観察すると、既に、成人した大人の場合は、表面的には変わったように見えても、幼少の頃からそれまでに備わったものの考え方や思考回路、初対面のときの反応の仕方などは、あまり変わらないように思う。従って、直観というのは捨てたものでもないと思う。直観といっても、単なる先入観や山勘(やまかん)ではなく、それまでの様々な体験から人を見る眼はそれなりに養われているはずなので、第一印象で、ある程度、人の長所や短所は見抜けるような気がする。特に、生まれも育ちも違う複数の人が、ある人に対して共通の感情を抱いたのであれば、それは一定レベルの信憑(しんぴょう)性があるといってもよいのではないだろうか。
※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】