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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集 社史とともに歩む社員の人生

106.思い至ったあの言葉−その10−「自分は自分のことを知らない」 

更新日 2026年10月27日


 良きにつけ悪しきにつけ、自分のことは自分が一番知っていると思っていても、案外、人に言われて「自分はそうだったのか」と、初めて自覚するという経験は、誰しも一度や二度はあるのではないだろうか。だいぶ昔の話になるが、チャップリンの「サーカス」という映画の中で、テントに迷い込んだチャップリンに対して、初め厄介(やっかい)払いしようとしていたサーカスのオーナーが、客前に立たされたチャップリンが思いがけず観客に大うけしているのを見て、「彼は、何で笑いを誘うのか、自分ではわかっていない」と、チャップリンの演技ではない、持って生まれた才能を見抜き、ほくそ笑む場面があった。このように、自分の才能や長所を、自分よりも他人の方がいち早く見抜くということは、間々あるものである。しかし、このような長所の場合は、当人にとってありがたいことで嬉しい限りであるが、逆に、短所の場合は、人を不快にさせたり、迷惑がられたりするものである。

 自分の場合、子供のころから「嫌」と思ったときは、すぐ顔に出るようで、人を不快にさせたことが何回かあった。高校時代の体育の時間、自分ではそんなつもりはなかったが、やりたくなかった気持ちが顔に出たみたいで、「そんな嫌な顔をしなくてもよいだろう」と半ば呆(あき)れたような口調で指導教官に言われたことがあった。就職し、初めての海外出張でネパールに行ったときも、慣れない仕事で疲れ果て、宿舎で仲間と一緒に夕食を取っているときに、無意識に食卓に頬杖をついたらしく、真向かいに座っていた上司の顔が急に曇り、こっぴどく叱られたこともあった。日常のデスクワークにおいても、世話になっていた役所の人が、わざわざ会社に出向いて打ち合わせをしていた折、自分としては翌日大事な資格試験を控えており定時に帰りたかったので、「打ち合わせが長引き残業にならないか、下手(へた)をすれば徹夜になるのではないか」と気が気ではなかったことがあった。自分としては、そんな気持ちを顧客に悟られまいと、押し殺していたつもりが、親しくしていた人だからであろう、直ぐに見破られてしまい、「今日はやる気がない」と苦言を呈されたこともあった。

 親は自分以上に自分のことを知っているというのも事実である。上の姉が亡くなる数日前、義兄から深刻な病状を打ち明けられ、何も知らない母親にそれを伝達する役目を担わされたことがあった。どう話を切り出したらよいか逡巡しながら、実家に行き玄関を開け母親と顔を合わせるやいなや、まだ一言も口を開いていないのに、「どうしたの、何かあったの」といきなり問い質(ただ)された。親は、子供のちょっとした表情の変化や仕草から、子供の気持ちや考えていることを見抜くことができるもので、ごまかしは効かないものである。嬉しいとき、怒っているとき、悲しいとき、落ち込んでいるとき、悩んでいるとき、喜怒哀楽に応じてどういう表情になるか、どういう態度をとるか、どういう口癖があるかということは、子供の頃から余り変わらないことを、親は見抜いているものである。

 70歳過ぎて老人の域に入ってからも、年老いた母親から「昔からそうだった」と言われて、はたと気が付くことがたびたびあった。食事中に頬(ほお)杖(づえ)をつく、食べるときに「むしゃむしゃ」と音を立てる、話すときに人の目を見ないなどの癖は、案外、大人になっても、注意されないと気づかないものである。自分の短所に関しては、無意識的かもしれないが、聞きたくない、認めたくないという気持ちが働くのでなおさらである。長所や才能ならば良いのだが、短所はやはり改めるべきは改めた方が良いのは当然であり、その意味で切り口を変えた見方ができる他人の助言は貴重で、真摯に耳を傾けるべきであろう。よく、身近な人の一言を口うるさく感じることがあるかもしれないが、口うるさいのは、関心があるからで、無視されるよりはよほどまして、むしろ、感謝すべきことなのかもしれない。


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】