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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

11.仕事の流儀-体験からいえること-

 どんな仕事でも、どんな人でも、自分なりの仕事の流儀というものがある。図に示すように、仕事を取り、こなし、仕上げるまでの一連の流れの中に、長年の経験から積み上げられた、自分のやり方がある。自分の場合、入社間もない頃、所属していた部署が、黙っていて仕事が入ってくる環境になかったため、否応なくハングリー精神が植え付けられたのか、やったことがなく自分にとって未知の領域であっても、何とかやりくりしてチャレンジしてみようという気になる習性があった。傍(はた)から見れば、随分、無理していると思われる仕事を、怖いもの知らずで、いくつも引き受けた。その結果、予想通り、試行錯誤の連続で、苦労もあったが、それにより、仕事の幅、守備範囲が広がったというのも事実である。今にして思うと、悩み苦しんだ分だけ自信が付き、仕事をする上でのコツや勘所が体得できたような気がする。

社史関連エッセイ挿図11

 仕事に着手し、顧客と接する段階で重要な点は、顧客の中の誰がキーマンであるかを、いち早くつかむことだと思う。窓口の普段接している担当者がキーマンとは限らないので、その人の言うことを鵜呑(うの)みにして仕事を進めた結果、途中で条件が変わり、作業が振出しに戻ってしまったというケースは往々にしてあるものである。そうならないためには、顧客の組織内のヒエラルキーをよく理解し、条件のレベルにもよるが、誰がその実質的な決定者であるかを見定めることが重要である。

 仕事をこなす上で、最も重要なのは、どのようなチーム編成(キャスティング)で対応するかということである。仕事の性質と分量を理解し、それに必要な人材をあてはめるわけであるが、肝心なのは、単に、専門性が合致していれば事足りるというわけではなく、相手の要求レベルに応じた能力のある人材をあてはめる必要があるということである。同じ専門だからといって、技術レベルの差は歴然としたものがあるもので、如何に、顧客を説得できるレベルの力量を有する人を、社内外を問わず、招聘(しょうへい)することができるかが、仕事を成功裏に終えることができるかどうかの第1関門である。そして、チームで仕事をするときの基本は、決して一人で背負(しょ)い込まずに、できるだけ部下や協力会社に分担するということである。理想的には、自分しかできない仕事のみをするべきである。その方が、多くの仕事を並行してできるので、組織全体として効率が上がるのと、部下に対する教育効果にもなる。ただし、部下に仕事を与える際、簡単すぎると、力を出し切らず、成長という面では妨げになるし、逆に、難しすぎると、はかどらないか、品質に支障をきたすことになるので、誰が何をできるかを見極め、その時の実力で、背伸びすればできる程度のものを任せるのが適当のように思う。

 仕事の進捗は、予(あらかじ)め、チームで相談し、いつまでに何をやるかを決め、それをマイルスト―ンにして管理するわけであるが、ルーチンの作業はプロセスが決まっているので時間効率を求めるが、非ルーチン作業はプロセスが決まっておらず試行錯誤を必要とするので、時間に余裕を持たせるのが原則である。プロジェクト全体の時間配分としては、飯盒(はんごう)炊飯と同じように、初めはちょろちょろでよいが、中ぱっぱの山場のときは、徹夜も辞さない意気込みで取り組むのが大事である。最後の追込み、勝負のときは、案外、工期のぎりぎり二日前ぐらいになることが多かったような気がするが、経験的には、そんな日の夜中に、ミラクルタイムが訪れ、懸案事項が一挙に片付いたということも何度かあった。身体を壊すようでは仕方ないが、後で埋め合わせをして、バランスを図ることを前提とすれば、飛び飛びでやるよりも、連続して取り組んだ方が、質の高い成果品が出来上がる気がする。間をあけずに取り組むことにより、徐々に、皆の調子が整い上質なハーモニーに仕上がっていく、合奏や合唱などの音楽の練習と似たところがあるように思う。なお、仕事の途中で、何か引っかかったこと、ちょっと気になることがあったら、「まあいいや」と見過ごさずに、納得いくまで、疑問点を明らかにしておくことが重要である。案外、そこに大きなリスクが潜んでいたり、問題解決のヒントがあったりするものである。経験からも、第6感は、意外と当たっていることが少なくないように思う。

 仕事の成果に関しては、完璧さを追求するために、精一杯、人事を尽くすのは当然であるが、その一方で、何事も、準備不足から始まり時間切れで終わるのが世の常であることも、承知しておくべきことである。そうでないと、九割以上の出来であっても、常に、後悔の念に駆られ、次のステップへのやる気をそがれることになりかねない可能性がある。だからといって、時間が来たら安易に妥協するというのではなく、疑問は疑問として、一旦、横に置いておき、それは未解決のままであることを、頭の片隅で分かっていることが大事な気がする。限られた制約条件の中ではなるようにしかならないという居直りは、逆に、いつかチャンスが到来したら解決してやろうという次への勇気を奮い立たせるものである。

 仕事を仕上げる際には、安易に満足したり、簡単に合点したりせず、あるいは難問を避けたりせず、道を究めるつもりで立ち向かうのが理想である。「手っ取り早く済ましてしまおう」、「片付けてしまおう」というのではなく、自らハードルを上げ、マニュアルの一歩先を行くつもりで取り組むべきである。文献をあさり、トップレベルと自分のレベルがどこにあるかを確認し、示様書とは別に、その上をターゲットにすれば、業務が終わった段階で、いつのまにか、その分野の一定レベルの実力が備わっているということは、少なくないのではないだろうか。常に、アンテナを高くし自らの技をブラッシュアップすることを怠ってはならない。本業では、幾つになっても青年でありたいものである。

 成果品の出来具合をチェックするときも、盲判ではだめで、かといって重箱の隅をつつくようなやり方でもよくない。部下の教育上は、ぎりぎりまで手を出さず静観し、方向性だけをチェックしておき、もうこれ以上遅れると間に合わない時点で、初めて乗り出すのがよいように思う。具体的なやり方としては、まず、ざっと目を通して、一生懸命取り組んだことの労(ねぎら)いを述べ、次に、詳細は分からなくても構わないので、気になったポイントのみを、かまかけ的に問いただしてみるのも一つの手である。相手が向きになってくれば、本音が出てくるので、一人では決めかねた点や悩んだ点なども浮き彫りになってくるはずである。報告書を、その都度、こと細かくチェックしていたのでは、身がもたないし、部下のレベルに応じた問いかけをした方が、手っ取り早いと思う。最後に、成果品が出来上がり、顧客から高評価を得た場合は、社内的にもその努力を評価することを忘れてはならない。注意すべきは、よく、何もできないと、早々に、部下にダメ出しをするマネージャーがいるが、誰しも長所短所があり、向いている仕事を与えれば、力を発揮するものだと、信じるのが先である。自分の部下の使い方の方に問題がある場合もあるということを、念頭に置いておくべきように思う。

 仕事のやり方は、仕事の種類によっても違うし、その人の性格や経験を踏まえたものの考え方によっても異なってくる。だから、同じ流儀を真似したからと言って、必ずしも、上手くいくとは限らないものである。先達のやり方の学ぶべきところは学ぶにしろ、自分の流儀は、やはり、自らの経験を土台に編み出していくもののように思う。


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※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇―働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意―ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ―父からの伝言―』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』など。