自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

HOME > 社史編纂・記念誌制作 > 風間草祐エッセイ集 > 17.リーダーシップ私論-その資質とは-

社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

17.リーダーシップ私論-その資質とは-

 組織の大小を問わず、どんな組織でもそれを動かすにはリーダーが必要である。組織を率いて、目指す方向に導く人が必要である。どんな人がリーダーとしてふさわしいかの議論は昔から随分なされてきたが、国や地域の違い、組織の性格、その時の時代的要請によって相応しいリーダー像も変わるものなので、どういう人がリーダーに向いているかどうかということは一概にいえないものである。もとより、歴史は一回性のものであり運不運もあるので、他のリーダーだったらという「たら、れば」は通用しない。自分がサラリーマン時代に接した身近な例を思い起こしても、組合の委員長、所属した部署の長、経営トップ、社外の業界団体や学会の長など色々なタイプの人がいたと思う。これらの方々の中には、組織の中で勝ち抜いて長の座を射止めたと自負する人がいるかもしれないが、本来、リーダーというものは、競い合い勝ち抜いた勝者を言うのではなく、周りがいつの間にか、その人の振る舞いを見てリーダーと認めるもので、なるべくしてなるのが理想のように思う。そもそも、長がついているポジションに収まっている人が、必ずしも、リーダーシップがあるとは限らないものである。中には、リーダーシップがなくても、いわゆる、高学歴とか、血筋が良いとか出世する上で有利なラベルをもっていて、エスカレーター式に偉くなった人もいるし、上昇志向が強く、色々画策して上層部に取り入り、政治的に動いて上のポジションに座っている人もいるのも事実である。従って、リーダーシップの本質を考える際には、名を成し功を成した人や、現状で上位のポストに収まっている人の振る舞いは、参考にこそすれ、是とせず、囚われないようにすることも大事であるように思う。

 私見であるが、これまでの経験から、リーダーには、その人の性格と集団をまとめる手法によって、大きく図に示す4つのタイプがあるように思う。性格というのは、情熱的か冷静かということである。情熱的な人は気持ちのまま感性で行動する。一方、冷静な人は何でも理詰めで考え理性で行動する傾向がある。集団をまとめ率いる手法としては、統制と放任がある。統制は、自らが率先垂範で指揮命令をとることである。この手法を採用している典型的な組織としては軍隊がある。軍隊は、命令と服従で組織の統率を図る。放任とは、部下の自主性を尊重することである。この手法を用いている例としては、オーケストラなどのプロフェッショナル集団が考えられる。オーケストラの指揮者は、各パートの演奏者の自主性を重んじ、能力を発揮させ、一つのハーモニーを生み出すのが役割である。

 情熱的な性格で集団をまとめる手法として統制を好むリーダーは、激情タイプと言える。やる気とガッツがあり、たとえ、その能力に至らない点があったとしても、人の感性に直接訴えかけるので、無条件に人を引っ張り、引きつける力がある。ただし、感情的になり過ぎると、自分を制御できなくなり、暴君となり、暴走する危険性がある。冷静な性格で統制を好むリーダーは、仕組みを重んじ、規律によって統制を図る冷徹タイプである。感情に左右されずに、指示命令系統に従い戦略的にことを成すので、ぶれることは少ない。ただし、ややもすると、融通の利かない窮屈な恐怖政治に陥りやすい危険性がある。情熱的で手法として放任を好むリーダーは、人間好きで、部下の心の襞まで感じ取ることができるので、人の心情を考慮して、事にあたる人情タイプである。色々な立場の人の身になって考えることができるので、人心に配慮した方策が打てる。ただし、感情移入が激しいので、情に絆(ほだ)されたり、流されたりして判断を見誤る危険性がある。冷静な性格で放任を好むリーダーは、部下の個性を客観的に把握することができ、大所高所に立って物事を判断できる寛容タイプである。部下を公平に扱い、論理的に考え厳しい判断を下さなければならないときも、理に情を添えることを忘れない、罰するよりも褒めることによりやる気を起こさせ、組織を引っ張っていく。ただし、理解があり過ぎると、部下の言いなりになり、ブレーキが効かなくなる危険性がある。「任せて委(ゆだ)ねず」の姿勢を堅持することが大事である。

社史関連エッセイ挿図17

 これらの4つのタイプのリーダーには、個性があり、長所短所があるが、共通して必要な資質として以下の5点が考えられる。1つは、サラリーマン根性に陥いることなく、仕事にオーナーシップを持って取り組み、評論家でなく、常に当事者意識を持っているということである。仕事に対する熱意と真摯で真面目な態度は、様々な意見を持つ人がいたとしても、皆を納得させることができる最大公約数的なもので、誰もの共感を呼ぶものである。2つ目は大局観があるということである。常に目線を高くし、将来に対して大局的な見方ができ、少なくとも5年ぐらい先までは見通す先見性があり、傍(はた)から見て、新しい時代の精神が体現化されているような雰囲気が醸(かも)し出されていればベストである。3つ目は、謙虚であるということである。よく懐(ふところ)が深いというが、そういう人は謙虚で素直な人が多いように感じる。たとえ、積極的であっても、謙虚でなくては人はついてこないものである。謙虚さとは、消極的というのではなく、わかっているけれど、それを主張した場合の悪影響を考え、敢えて控える態度である。我を通さないという点で、協調性と相通じるところがある。いくら立派なことを言っても、自分が折れること、人に譲ることを知らない人は嫌われる。自分にブレーキをかける、どこまで我慢が効くかは、その人の人間の大きさを図るバロメータとも言える。4つ目は度胸、器量があるということである。よく、担力というが、リーダーは、苦境に陥っても、へこたれず、平然としていられることが大事である。普段は物静かで目立たない存在であっても、身内が困難に直面したとき、摩擦を恐れず矢面(やおもて)に立ってそれを受けとめ、ピンチを凌(しの)ぎ見事に逆転して見せることは、度胸がなくてはとてもできないことである。このように、いざとなったら危険の中に身を投じることも辞さない人物に、人は魅力(求心力)を感じ全幅(ぜんぷく)の信頼を置くものである。5つ目は、柔軟性があるということである。一度決めたことはぶれずにやり通すということも大事だが、相反するようであるが、また、朝令暮改というわけではないが、明らかに前提条件が変わり改めた方が良いと思った場合は、それに固執せずに躊躇(ちゅうちょ)なく方針を変えるという柔軟性も、リーダーには必要である。時と場合によって、前向きな意味で「君子豹変する」ことも必要になってくるものである。

 ここまで書くと、何もかも兼ね備えた万能選手のような人でないと、リーダーは務まらないように感じるかもしれないが、そんな人は古今東西そうそういるものではない。歴史を紐解いたり、身近な例を見ても、万能な人はいないので、大概、性格の違う腹心となる人がいて、リーダーの短所を補っているケースが多いのではないだろうか。コンビネーションでことを運んだ方が上手くいく場合が多い気がする。リーダーは、カリスマになるほど、影響力は強くなるが、偏りが激しくなり、長所も活かされるが短所も無視できなくなってくる傾向があるので、腹心としては調整役としてマネジメント能力が高い人が向いている気がする。リーダーとして留意すべきは、この腹心の信頼を失いそっぽを向かれることで、それが一番大きなリスクといえる。

 リーダーは見えないものを求めて旅立つ。その途中で、共感、共鳴したフォロワーが現れるが、この時点でリーダーは自分のリーダーシップには気づかない。見たいものを見てやりたいことをやり、自身が描く目標に向かって歩いているだけで、自分がリーダーシップを発揮しているとは意識しない。生来、リーダーは、ポジションには無頓着なものである。つまり、リーダーはなろうと思ってなったのではなく、結果としてリーダーになるのである。リーダーが、この人ならついていきたい、この人なら一緒に仕事をしてみたい、この人のために一肌脱ぎたいと言ってもらえる人であれば、命令や権威、飴とムチでの動機付けをしなくてもフォロワーの自発的な参画や協働を可能にするものなのだろう。目標の実現に向かって人の輪が広がり、ごく自然にリーダーの夢がみんなの夢になっていくのだろうと思う。難しい話でもなんでもない。戦略的思考とかコミュニケーションスキルを磨く前に、親しみの持てる魅力的な人間であること、リーダーシップはこれに尽きるといってもいいのではないだろうか。

 




風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇―働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意―ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ―父からの伝言―』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』など。