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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

25.健康維持のための心得-PDCAサイクル-

 子供の頃から、身体は弱い方ではなかった。姉2人と弟の4人兄弟であったが、姉は2人とも病気がちで、年中、学校を休んでいた。小学校のとき伝染病のジフテリアにかかって入院したこともあった。弟は自家中毒を起こして、泣き叫びながらリンゲルを打たれていたのを覚えている。兄弟の中で唯一自分だけが丈夫だったので、親も手のかからない、病気に関しては心配いらない子だと思っていたのではないだろうか。自分としても、虫歯で歯医者へ行ったり捻挫して接骨院へ行ったりはしたが、大人になるまで健康や体力には自信があった。ところが、就職し働き盛りであった36歳のとき、不摂生がもとで自分にとっての原体験ともいえる大病を患った。今振り返っても、まさに人生最大の危機であったと思う。

 仕事で都内に出かけていたとき、急に悪寒を覚え早めに帰宅し最寄りの医者に診てもらうと、既に肺に影があり、即、入院を勧められた。そのときは2、3日入院し静養すればすぐに治ると思っていたが、入院してから徐々に熱が上がり始め、咳・痰が激しく出るようになり、1週間後にはベッドで起き上がることもできなくなってしまった。「この一両日が峠」と両親が呼ばれる事態となった。余りに急激に悪化したので、医者も慌てて、注射針を足に入れっぱなしのまま抗生物質を「当たるも八卦当たらぬも八卦」とばかりに、代わる代わるに連続して投与した。それでも症状が余り好転しなかったので、自分としても「このままでは行くところまで行ってしまうかもしれない」という不安が頭をかすめた。「この苦しみには何とか耐えるので、もう一度リベンジの機会を与えてほしい」と藁(わら)にも縋(すが)る思いであった。結局、眼に黄疸の兆候と幻覚症状が出始めた頃、偶然いくつか目の抗生物質がヒットしたらしく、霧が晴れるように肺の影も薄れそれとともに目に見えて容態も回復し、九死に一生を得ることができた。入院後10日余りの出来事であった。

 1ヵ月入院し退院を迎えたとき、主治医から再発防止のための3つの約束を言い渡された。1つ目は一時的にでも免疫力が低下しないように、3度の食事はキチンととるというものだった。医者は病原菌の中で仕事をしているようなものなので、いくら忙しくても3度の食事は必ずとるとのことだった。思えば、打ち合わせに間に合わないからと昼食をよく抜くことがあった。時間がないときはジュース1杯でも元気が出るものだと念押しされた。2つ目は、たまの徹夜は仕方ないが、その分後で早めに睡眠をとるというものだった。振り返れば、徹夜をしても1週間もすれば自然に薄まると、その分意識的に取り戻そうとはしていなかった。3つ目は億劫(おっくう)がらずに風呂に入れというもので、「風呂に入る第1の目的は身体を洗いきれいにすることではなく、身体を温め昼間緊張した筋肉をほぐし新陳代謝をよくするため」というものであった。汗をかかない体質であることもあったが、確かに面倒くさいからと風呂に入らないことはよくあった。どれも、至極当たり前のことであったが、悪しき生活習慣が常態化していた。大病してから既に40年近く経つが、今もこの約束は日々律義に守っている。

 おかげで、それ以来さしたる病気もせず健康を維持できているが、最近感じるのは、眼・歯・腰など身体のあちこちの不調と体力の低下が顕著になってきたということである。如何に健康であっても、シニアになれば寄る年波に身体の機能が低下するのは仕方のないことであり、老化は生き物である以上必然で、これを止めることはできない。加齢とともに、どこからともなく病が忍び寄ってくることもひしひしと感じるようになった。日本人の死因第1位は悪性腫瘍、癌である。シニアの30%近くは癌を患(わずら)っているそうで、この数値は自分の周りを見回しても、実感として納得できるものである。死因第2位の心不全、心筋梗塞などの心疾患も要注意である。病気にならないためにできることとしたら、病気や身体の弱点を早く見つけ出すことである。そうすれば、早く対処することができ、大事に至らないで済む。そして、病気の前兆を自分で気づくのは難しく、やはり、プロの手を借りる必要がある。そこで、プロにウォッチしてもらう定期健診や人間ドックが重要となってくる。 健康診断は、小学校の頃から定期的に受けていたが、人間ドックは勤めていた会社の規定により40歳になったとき初めて受け、その後、退職するまで年に1回の割合で継続して受診していた。人間ドックを受診し始めた当初から、エコー(超音波)で調べると毎回指摘されていたのが胆嚢(たんのう)の異常であった。検査技師によって見解は色々であったが、結局、胆石でもポリープでもなく胆嚢(たんのう)の壁が厚くなる腺筋症ということで意見が落ち着いた。40代の後半になり、そのままほっといても構わないが、もしも、その中に癌ができても発見できないと脅され、色々逡巡したが、49歳のとき思い切って内視鏡で摘出することにした。それ以降、現在まで、うなぎやてんぷらを食べても特に胃がもたれたりしたことは一度もない。勿論、胆嚢(たんのう)がないので確かめようがないが、現段階で、肝臓系に癌は発見されていない。健康診断と人間ドックは指向性が異なり別物のような気がする。健康診断は、病気がないことを前提に行われるが、人間ドックは病気を探すことを目的に行われるので、早期にその人の弱点を発見しやすいのではないだろうか。人間ドックは、退職後も、自宅近傍の病院で年1回受診するようにしている。

 人間ドックで見つかった病気や弱点は放っておくのではなく、専門医にかかり場合によっては治療し、指標となる検査数値をモニタリングし経過観測することが肝心である。胃に関しては、専門医にかかり1~2年に1度の割合で胃カメラを飲むことにした。大腸に関しては、便潜血検査を人間ドックで毎年行っていたが、一度、便に血が混じりカメラで大腸検査をしてから、胃と同様に2~3年に1度の割合で大腸カメラ検査をしている。その結果、親指大のポリープができていて摘出したことがあった。幸い良性であったものの、良性でも放っておくと悪性に変化する場合があるようで、摘出して正解であったと今では思っている。前立腺に関しては男性なら誰しもシニアになれば問題になることが多いが、御多分に漏れず、60代に入り人間ドックでPSAが基準値を上回るようになり、以後、泌尿器科で定期的に監視モニタリングを行っている。一度、連続して数値が上昇しMRIを撮ったことがあったが、その後PSAも低下し落ちついている。友人、知人の中にも、前立腺肥大や前立腺癌は多いが、今の所、まだ癌は免れているようである。眼も、人間ドックで画像が波打って見える網膜前膜が見つかり、以後、眼医者で定期的に進行状況を検査していたが、白内障の手術をしたときに一緒に硝子体手術をして膜を剥離し、現在は経過観測をしている。いずれにしろ、身体の弱点が見つかったら、専門医にかかり、モニタリングで監視し悪化の兆候をいち早く察知することが大事といえよう。可能ならば、身体に関して何でも相談できる「かかりつけ医」がいるとベストである。「かかりつけ医」は、自分以上に自分の弱点がわかっていてそれをモニタリングしてくれるので、心強いものである。

   それと、健康を維持するには、病気にかからないように、じっとしてさえいればよいというわけではない。身体はほどほど使うことによって錆びつかず、機能を維持することができる。特に、内臓はきちんと飲食をすることにより無意識的にそれが可能であるが、筋肉はそうはいかない。意識的に動かす必要がある。つまり、全身運動が不可欠である。しからば、どんな運動をすればよいかということであるが、その人にあった無理なくできるものが最適であると思う。自分の場合は、物心ついてから今まで、唯一長続きしているのがランニングであった。手軽にいつでもどこでもでき、お金もさほどかからないので取っ付きやすかったためであろう。ランニングのきっかけは、高校時代のテニスの練習であったが、途中走らない時期もあったものの、60代の終わりまで大小様々なマラソン大会に参加した。ところが、69歳のときコロナでマラソン大会も開かれないようになり、マラソンからも遠ざかっている間に古希を迎え、腰痛が再発した。それまでも何回か腰痛は経験していたが、大概、近くの整形に1、2カ月通えばいつの間にか消えていた。しかし、そのときはそれまでと違い、なかなか好転しなかった。椎間板が減り背骨も少し曲がり、気が付くと身長も若い時から5cm近く縮まっていた。医者に聞くと、老化に伴う変形性腰椎症というもので、放っておくと脊柱管狭窄症になると脅かされた。異常に気が付いてから、色々な整形外科、整体、接骨院をはしごしたがなかなか目に見えて良くはならず、整形外科医や整体師の意見を総合すると、結局、身体を動かした方が改善するということがわかった。運動するなら、わざわざジムに通うよりも、これまで慣れ親しんだランニングが最適とのアドバイスを受け、ランニングを再開した。ただし、それまでは著名な大会に出ることやタイムを縮めることを目的としていたのに対し、以後は年1~2回の大会には練習の動機付けとして参加することにし、リハビリを目的に週1~2回、タイムも計らずに1~3キロ程度家の周りをスロージョギングすることにしている。

社史関連エッセイ挿図25

 何をするにしても、先ずは健康でなくてはならない。健康であるための基本は、図に示すように、生活習慣の改善と適度な運動である。生命体として存続するためには、食う、寝る、出すが順調であることと、適度に体を動かし汗をかき新陳代謝をよくすることが基本である。これらは、年とともに変化する体調を考慮し段階的に計画(Plan)を見直し、できる範囲で実行(Do)していくことが大事である。そして、定期的に健康診断や人間ドックで病気の兆候や弱点があるかどうかを評価(Check)し、何か見つかったら専門医にかかり対策 (Action)を施し経過をモニタリングすることが必要である。人生100年時代と言われているが、幾つまで生きるかは、健康維持に関する心がけ次第で変わってくるような気がする。PDCAのサイクルにそって健康管理を怠りなく行うことにより、できうる限り人の世話になるのを最小限に留め、元気であり続けたいと願っている。

 


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇―働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意―ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ―父からの伝言―』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』など。