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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

31.シニアの家計簿-身の丈の生活設計-

 学校を出て就職しサラリーマン生活をスタートさせてから現在に至るまでの、概略の家計の変遷は図に示すとおりである。

社史関連エッセイ挿図31


 会社に就職し20代半ば過ぎに結婚し家庭を持ってから、女房もアルバイト位はしたことがあったが食費の足しになる程度で、基本的に1馬力で、3人の子供を育ててきた。子供が小さい頃はさほどではなかったが、中学、高校、大学と進むにつれ、家計に占める学費の割合が増していった。それと、40代手前で家を建てたのでそのローンもあり、学費と住宅ローンを合わせた出費が年間400万円を超える時期もあった。必需品の車もオールローンだったので、衣類や家具などの物を買う余裕などほとんどなかった。家族旅行は500円で泊まれる会社の保養所をよく利用し安くあげていた。子供の入学金などまとまった金が必要なときは、満期になれば返済可能な貯蓄型の保険などからよく借金をしていた。急な冠婚葬祭で出費になるときは、一旦、銀行のカードで借りてボーナスのときに返済するようにしていた。当然、諸々のしわ寄せは親父の小遣いということになり、50代半ばまで、恥ずかしながら月の小遣いは昼食代込みで3万円程度だったと思う。社内のゴルフコンペがあると、いっぺんに財布の中はすっからかんになり、社用でタクシーへ乗った際、タクシー代が立て替えられず、財布には常時5千円は入っていないと恥をかくことを思い知ったこともあった。主に飲み代に消えていたと思うが、小遣いの不足分は、講演会の講師や資格試験委員の謝金などの臨時収入で補っていた。総じて、子供を育てている間は自転車操業であったが、女房が何とかやりくりして、家計は成り立っていたようであった。

 そのうち、子供も順番に就職し学費が無くなり、退職金で住宅ローンも完済したので、汲々(きゅうきゅう)とした生活からは解放された。その後、継続雇用で勤めていた頃は、収入から生活に必要な支出を差し引いた余剰金の多寡はピークを迎え、海外旅行にも何回か出かけられた。しかし、それも束の間、60代後半に退社し完全リタイアの年金生活に入ると、時間は有り余るほど出来たのだが、家計的にはさほど余裕もなくなってきた。年金だけでは夫婦2人だけの衣食住はできても、孫の面倒や冠婚葬祭など家族や友達とそれなりの付き合いをしながら老後を豊かに暮らすことは、なかなか難しいことがわかった。老後の生活をある程度余裕をもって過ごすには、あくまで年金が主であるが、それを補充するための資金源を確保する必要が出てくることに気が付いた。

 そんな思いから、いよいよ年金生活に入ると決まった頃、何かわずかでもよいから、プラスアルファの定期収入を得る方法はないかと考えていたところ、持ち株会で貯めた自社株を崩し、一定額を預けたら何もしなくても黙っていれば毎月一定額が入金されるといううまい話を証券会社から聞いた。リスクはゼロとはいえないがほとんどないということだったので、もともと、金儲けには疎(うと)いし、毎日、そのことばかりを気にしているのも嫌だから、試しにやってみることにした。

 初めのうちは調子良く、元金を崩さない状態で毎月一定額が入ってきた。しかし、コロナにより状況が一変した。急激に株価が低下し、それまで得た利益をほとんど吐き出すことになってしまった。その時の証券会社の言い分は、「コロナみたいことは100年に一度ぐらいしか起きないので、半ば不可抗力」というものであった。何だか騙(だま)されたような気分になったので、損した分を取り返してほしいと言うと、また、違う方法を提案してきた。しかし、これも初めは調子良くそれまでの損を挽回し始めたのだが、今度は、ロシアのウクライナ侵攻により株価が低下し、また、元の木阿弥になってしまった。結局、資金運用を始める前とほとんど変わらない状態に落ち着いた。この数年間は何だったのだろうかと思えてきた。ハラハラドキドキしただけ損をしたような気分に陥った。

 損得を楽しめる人はよいが、生来、賭け事があまり好きでない人にとって投資は向いていないと思う。冷静に考えれば、景気が上向きのときは何に投資しても儲かるし、景気が下向きのときは何に投資しても損が出るというわけである。景気が下降線のときに儲けることはけしてできないものである。儲かるときにその量を少しでも大きくし、損するときにその量をできるだけ少なくするのがプロなのであろう。毎日、小説を読むように、『四季報』を捲(めく)っているのが好きな人は、趣味と実益が一致しているので、投資に向いていると思う。しかし、それを良しとしない人は、投資は向いていない気がする。よくよく考えれば至極当たり前のことだが、トライアルしてみて、身に染みてわかった気がした。

 投資をするよりも、やはり、額に汗して地道に日々稼ぐ方が確実で性に合っている気がして、何か自分にできるものはないか探して見ることにした。この年になって肉体労働には限界があるし、できれば、これまでの現役時代のキャリアが活きる仕事が取っ付きやすいし、better(ベター)であることは確かである。友人や知人に聞くと、教師であった人が塾で教えたり、電気のエンジニアとしてのキャリアを活かして電気量販店の販売員をしたりしている人もいるようであった。思えば、自分も現役時代はエンジニアの端くれだったので、それを活かすことが最も現実的な方法ということに思い至った。かといって、連日勤労するのはきついので、予(あらかじ)め氏名を登録しておき、仕事があったときに馳(は)せ参じるというやり方をとるのが適当ということに気が付いた。これならば、仕事に追い回されることもない。ただし、常に一定レベルの技術力を維持しスタンバイしておく必要があるので、自己研鑽が不可欠ということになる。技術力が錆びつかないように、知識が陳腐化(ちんぷか)しないように、退職後も専門誌に眼を通したり、講習会に参加したりするなどして、常に専門分野の新しい情報を入手し、技術力のフォローアップに努めることだけは心掛けるようにしている。

 周囲のシニア世代の人を見ていても、人によってお金の使い方はそれぞれである。住まい、車、装飾品、旅行など色々であるが、いずれにしろ、どの程度の収入が見込めて、何にどの程度使って、その結果どの程度の貯蓄が残されているかということを押さえておかなければ、何事も実現しない。そのために、我が家では通帳を用途によって使い分けている。日常の生活に関するもの、不定期の臨時の出費に関するもの、旅行などの積立に関するもの、自分と女房の個人的な収支に関するものである。各通帳に対応して費目別の集計が可能なように、表計算ソフト(Excel)を活用し、集計表を作成している。費目としては、日常生活に関しては、年金、還付金、配当金、若干のアルバイト代などの収入と、支出に関しては税金(住民税、所得税、固定資産税、車税)、保険(社会保険、生命保険、介護保険、火災保険、車任意保険)、生活費(食費、光熱費、交通費、通信費、医療費、雑費)などである。不定期な出費に関する費目としては、生活費補充、冠婚葬祭費、家族祝い、イベント費、家族支援費、物品購入費などがあり、別途準備した積立金で対応するよぅにしている。これらの集計は、月別と年別に行い、年末にはそれらの結果を踏まえ、5~10年先を目途に概略の収支の見通しを立てることにしている。長スパンで見た費目別の大枠の数値を押さえておけば、詳細の出費は年度ごとに状況に応じて裁量で行っても、家計には大きく影響しないと考えている。

 このような方法を年金生活が始まってから7~8年続けているが、大枠の家計の状況を把握する上では、それなりに役に立っているのではないかと思っている。しかし、だからといって、四六時中、数値を打ち込んだ表を眺めて汲々(きゅうきゅう)としていたのでは息が詰まってしまうので、折に触れ目を通す程度にしている。表を見て思うことは、年を取ると、とかく先行きが不安になるので、節約し守銭奴(しゅせんど)のようにただ貯蓄することだけに走りがちになるが、それではだめで、お金を墓場まで持っていくわけにもいかないので、自分のやりたいことには支払い能力の範囲で出費を惜しまないのをモットーにするようにしている。要は、身の丈に合わせた生活設計ができればよいわけある。それと、夫婦どちらが先に逝くかわからないので、残された者が困らないように、貯蓄とそのありかは共通でわかるようにしておくのがよく、さらに付け加えるならば、自分の死後のお金の処分のことも考えておく必要があるように思う。自分の死後、子供たちが遺産相続で仲たがいを起こさないように、元気なうちに遺言状などを書き残しておいた方がよりbetter(ベター)であるように思う。遺産相続の多寡は、自分たちの面倒を誰が見てくれたかどうかにも関係するが、基本的には法律にのっとって公平で、子供たちの間で納得性があるようにしておいてあげるのが親としての務めであろう。

 


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇―働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意―ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ―父からの伝言―』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: ―企業人として思うこと―』など。