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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集

48.心に沁みるあの言葉-その2- 「計画を立てると立てないとでは、実現の可能性が違ってくる」(大学先輩)


 人には誰しも願望がある。何かをやりたい、達成したいと思う。しかし、そう思っていただけでは、ただ時間が過ぎ去るだけで、何も始まらない。行動しようと思っても、何から手を付けたらよいかわからずに、気ばかり焦ってしまい、それが高じるとパニック状態に陥ってしまいかねない。なぜ、初めの一歩を踏み出すことができないのか、行動することを躊躇(ちゅうちょ)するのかと考えると、その原因の第一番目は、どうしたら達成できるのかその道筋が分からないことである。次に、自分にそれができるかという不安、自信の無さが尻込みさせているのである。不安が募り落ち着かなくなり、あたふたしだすと、闇雲に片端からすぐできることに手を付けたくなる場合もある。しかし、いきあたりばったりでは、確かに一時的には自己満足が得られるので、それはそれで楽しいのかもしれないが、ただひたすら走り続けたとしても、目的が達成される確率は極めて低いことは火を見るよりも明らかである。何とかなるさでは、何事も成就することはないのである。そういうときは、まずもって、心を落ち着かせ、計画を立てることから始めてみることである。不思議と計画を立てるだけで、何も始まっていないのに、不安は収まり、半分終わったような気になるものである。

 冒頭の言葉は、学生時代、クラブの先輩が折に触れ言っていた言葉である。よく、クラブの合宿などが間近に控えているにもかかわらず「頭で覚えておけば十分」と、面倒臭そうな顔をして動こうとしないのを見て、「どうせやるなら、なんとなくやるのではなく、目標を定めスケジュールを立てた方が、そうしないないよりも実現する可能性は全然違うぞ」と窘(たしな)められた。おかげで、クラブ活動のあらゆる場面で、事前に綿密な計画を立てることが習慣づけられた気がする。

 その影響なのか、就職し社会人になってからも、仕事に取り掛かる際には、何かにつけ、計画を立てるのが癖のようになってしまった。30代前半に川喜田二郎の著書『発想法』を読み、情報カードを愛用するようになってからは、「Day Plan」と称して、毎日、いつ何をやるかを、朝、通勤電車の中で書き込んでいた。40歳前に課長になってからは、自分の課の50近くの案件の年間の進捗状況が一望のもとに見渡せるようにと、既成の情報カードとは別に3ミリ方眼の用紙を縦17センチ、横は畳一畳の長さ(180センチ)に繋ぎ合わせ裏表利用すれば365日記入できるスケジュール表を作成し、屏風のように折りたたんで、自家製の大型のカードに入れて収納し持ち歩いていた。

 計画を立てるときは、まず、目的を達成するまでのプロセスを描き、実現するための道筋を明らかにする。次に、途中の節目となるマイルストーンを設け、各マイルストーンに至るタイムスケジュールを策定する。その際には、各マイルストーンごとに、結果を左右する影響要因は何かを見極め、隘路(あいろ)となるものはないか、障害となりうる事項は何かを予(あらかじ)め抽出しておけば、克服すべき課題もクローズアップされるし、いざとなったら途中で軌道修正することも容易になる。

 何かにつけ計画を立てる癖は、仕事の面だけでなく個人的なことにも及び、いつからか、毎年、年の終わりに10年程度先を見据えた翌年の年間計画表とタイムスケジュールを作成するようになった。作成するにあたって、項目としては、思いつくままランダムに書いても収拾がつかないので、クリエーター、家庭人、専門家の3つの立場に立って、やりたいことを記入することにしている。クリエーターとしては、何か新しいことをインプットするための異文化体験とか、アウトプットとしての執筆活動などの思惑(おもわく)、家庭人としては、健康、運動、蓄財、娯楽、住居などの項目ごとに予定や行動を起こしたいことを記入している。何をやるにしても家族とも関係してくるので、女房、親、子供や孫の年齢も併記するようにしている。専門家としては、自己研鑽のための専門誌の購読や講演会などの予定を記載している。もちろん、これらの記載された事項の大半は直ぐには実現しないわけであるが、それに懲りずに、備忘録のようにして、何年かそれを文字にして先送りしていると、どういう風の吹き回しか、いつのまにか運が巡ってきて、念願がかなうということは、少なからずあるものである。自分の場合は、人間ドックや持病の手術、ホノルルマラソンなど参加したいスポーツイベント、行ってみたい海外旅行、住まいのリフォーム、本の出版、専門資格の取得などが、何年か計画し続けた結果実現した事例としてあげられる。特に、博士号に関しては、30代前半におぼろげながらいつか挑戦したいと思っていたのが、毎年、忘れずに年間計画表にtake(テイク) note(ノート)しているうちに、いつのまにか機が熟し天の時が訪れ、15年越しで取得することができた。

 科学者であり実業家でもあったベンジャミン・フランクリンの言葉に、「計画を立てないことは、失敗する計画を立てることだ(By failing to prepare, you are preparing to fail)というものがある。計画を立てないことは、ゼロではなくマイナスからのスタートになるということを意味し、逆説的に計画することの重要性を説いたものである。計画を立案することにより、初めは夢のような願望であっても、なかなか一足飛びというわけにはいかないが、諦めずにステップバイステップで歩を進めることにより、やがて達成可能となることを信じて、何事にも取り組んでいきたいものである。

 



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※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。※今回のエッセイのように〝社史〟を作るときには周到な計画が不可欠です。