更新日 2026年1月21日
サラリーマン生活の中で、マイナスの体験はつきものである。仕事面では、業績不振によるポストからの降格、部下の不祥事の責任をとった左遷、上司との不仲、思わぬ横やりによる昇進レースからの脱落、昇格試験の不合格などである。自分に非がある場合は仕方がないが、たまたま、事案が発覚した時、責任者だったとか、運不運があるのは事実である。仕事以外の面でも、所謂、酒、女、博打といった誘惑が、有頂天になっていた心の隙間に忍び込み、心の弱さから一時的に心身ともに支障をきたすこともあるかもしれない。これらのことは、自分が入社時に描いたバラ色の夢や希望的観測とはかけ離れた出来事ばかりで、それに遭遇したときには、ショックで打ちひしがれることもある。しかし、二度と同じ失敗を繰り返さないように反省することは大事であるが、いつまでも、くよくよしたり、ふて腐れたりするなど、それを引きずらないことが肝要である。
そういうときは、たとえ、窓際に追いやられたとしても、「人間至る所に青山あり」の気持ちで新しい環境を快く受け入れ、一定期間おとなしくしているのが得策である。不思議なことに、「人間万事塞翁が馬」というように、押し付けられ仕方なく取り組んだ新たな仕事が、外部環境の変化により思いがけず花開いたり、その中に自分のそれまで隠れていた才能を見出したり、業績が伸びたことにより、新たな道が開ける場合もありえる。また、自分の至らなさから窮地に陥りお先真っ暗で途方に暮れてしまった経験も、後から振り返れば、お灸を据えられたことにより自分の弱点が身に染みてわかり、生活態度を改めるきっかけになったりするということも事実である。ことほど左様に、そのときは自分にとってマイナスの体験のように思えたり、単なる繰り返しの無駄な経験のように感じられたりしても、一つとして同じ体験はないので、必ず新しい何かを汲み取ることができ、その体験があったからこそ、それをきっかけにして、あるいはエネルギーにして、ステップアップできた、また、より大きな致命的なリスクが回避できているということは、経験上も少なからずあることである。
精神科医で作家の斎藤茂太は『逆境がプラスに変わる考え方』、『元気が涌きでる本』、『心のウサが晴れる本』という書の中で、プラス思考の重要性とマイナス体験の意義を語っている。自分のマイナスを笑うことでプラスに転化する、自分で自分を笑いのめすユーモアの重要性を説いている。まさに、楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなるのである。人生にとって、回り道は必ずしも「マイナス時間」ではなく、むしろ、回り道がその後の人生に輝きを与える「プラス時間」に転化するということも少なくないと述べている。誰も好き好んでマイナス体験をする人はいないが、マイナス体験を自分の財産として次に活かすことができれば、より濃く深い人生を歩むことが可能になるような気がする。
※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、今は資本金がゼロでも「株式会社」と名乗って起業できるようになりましたから、自分の目算は正しいはずと考えて多くの会社が設立され、その大部分が倒産や廃業する「多産多死」状況になりました。自己過信から簡単に株式会社を設立し、当たらなければやめるだけというのでは準備や覚悟だけでなく、創業の情熱すら稀薄という、企業社会の質の低下が起こります。生き残ってきた会社はどういうハードルをどう乗り越えたかを記す「社史」の役割はさらに大きいものになると思われます。】