更新日 2026年3月24日
組織や集団のトップになると、自分が先頭に立ち組織を率いて経営していく上で、誰を腹心とするかということに関して逡巡するものである。判断基準として直ぐ浮かぶのは、仕事ができる、実績がある、人望がある、人格的に優れているなどの資質であるが、人によっては学歴などのラベルが良く見栄えが良いということを第一に挙げる人もいるかもしれない。しかし、現役時代、時の経営トップにそんな話を持ち掛けると、思わぬ答えが返ってきた。その人は、「必ずしも自分はそうは思わないが」と前置きして、身近な何人かの例を挙げ、「自分を裏切らないかどうかが最終的な決め手だ」と公然と言い放った。言われてみれば、話題に上った組織トップの言動を見てみると、もともと、猜疑心の強い人もいたが、それまで人望が厚かった人が、経営トップになった途端に人格が変わったかのように、部下を信用しなくなり、距離を置くようになった人もいたのも事実であった。この現象は、何もその人が特別というわけではなく、誰しも経営トップになると周りが皆敵に見えてきて信用できなくなるようである。何か裏があるのではないか、魂胆があるのではないかと疑心暗鬼になるのが常で、人を見ると懐疑的になる傾向が出てくるようである。勢い腹心を選ぶときは、「こいつは俺を裏切るやつかどうか」が第一の決め手になることになる。
自分もそのときはその話を他人事として聞いていたが、数年たち、経営陣の一角を担うようになってから、その人が言ったことに合点がいったと思えるような経験をした。自分の場合、どちらかというと敵を作らないタイプで、先輩、後輩の誰とでも分け隔てなく付き合い、徒党を組んだり、社内のどこかの派閥に属したりすることもなく、過ごしていた。しかし、ある年齢に達すると、それは見方によっては八方美人ということで、マイナス要因となりえるもので、経営トップにしてみれば、自分を裏切り寝返りかねない人物と映る場合もあるようである。経営トップとしては、誰にでも気に入られている奴よりは、他(特に反対派)から嫌われている奴の方が、他に行き場がないので自分だけについてくるしかなく裏切る可能性が低く安心できるという面があるようである。米国のトランプ大統領は、忠誠心の程度で部下を人選するようであるが、それもあながち当たってなくもない気がする。
それと、経営トップというものは、自分の周りで自分を引き立ててくれる脇役として部下(子分)を人選し体制を固める傾向がある。そして、その側近の一人に、自分と同じタイプというよりも、むしろ、汚れ役というか泥をかぶってくれる自分と違うタイプの人を必ず人選する。また、経営トップにとって、黒塗りの車の送り迎えは忘れられないもので、もはや、別な人生は思いつかないほど、そんな生活に浸かってしまっている場合が多いではないだろうか。従って、期限ぎりぎりまで、できればエンドレスでいつまでも君臨したい、場合によってはルールを変えてでもあるいは例外を設けてでも居座ろうとする。そして、部下は、いつまでもあくまで自分の盛り立て役で存在していてほしいと願うものがある。だから、自分と同じタイプで誰からも人気があったりする部下がいると、いつか自分を超えていくのではないか心配になる。たとえ可愛がっていたとしても「そこまでは望んでいない」と言いたくなる。いつまでも自分に使え、まかり間違っても自分の前には出てほしくないと思うものである。
このように、経営トップに限らず、組織や集団のトップの陥りやすい行動性向は、古今東西の治政者の振る舞いを見れば、容易に理解できるものである。しかし、どのような組織や集団でも、その永遠の存続と発展を願うならば、新陳代謝は必須で、その兆しを力で潰そうとする長期政権は後進の伸びる芽を摘むことになるので、弊害以外の何物でもないことは確かである。何事も引き際が大事であり、経営トップには潔さが要求されるが、退陣は自分から言い出すことは稀で、誰かが声をかけなければ何も始まらないものである。それを動かし軌道に乗せるには、組織あるいは集団として、まずは、期限付きの厳格なルールを作ること、次にそのルールを徹底する公平な第三者の存在を組織化し、人が変わっても継続されるように、システムとして構造化しておくことが肝心のように思う。
※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」や「記念誌」に関して言えば、内容の独自性や面白さはあったほうがいいが、それよりもむしろ業界内や学会内での体面や権威性を維持することを前提条件とする企業や団体は少なくない。制作会社としては、それはそれとして認めたうえで、なおかつ、そこからいくらか外れようとも、「こういう企画にした方がいいと思います」と提言することを怠ってはならない。】