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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集 社史とともに歩む社員の人生

91.合点のいったあの言葉-その10- 「しっぺ返し戦略」(アクセル・ロッド)

更新日 2026年5月10日


 人間同士の付き合いは、原則として貸し借りはしない方が正解である。自分は貸しと思っていても、相手方は借りと思っていないケースもしばしば見かける。中でも、金銭の貸し借りはまだしも、数量で表せない貸し借りは、記憶に残りづらく、終いには「言った、言わない」になりやすいものである。たとえば、誰も受け手がいない皆が嫌がる仕事があり、それを文句も言わずに引き受けたとしよう。しかし、自分としては好意的に引き受けたと思っていても、相手は、好きでやっているのだから構わないと勝手に解釈して気にも留めず、感謝の念など一向になく、お人良しを便利使いしようとする。そして、いつの間にか、それが当たり前になってしまうことになる。あるいは、仲間同士で意見が対立している場合など、どちらかが譲歩しないと収まらないし、物事が先に進まないと思い、今回は折れて相手の意見に従ったとしても、次に同じような機会に遭遇したとき、相手は、それを全く覚えていないかのように、一切譲歩せず、再び自分の思い通りに事を運ぼうとすることはよくあることである。

   ことほど左様に、何事も一人でやる場合はよいが、複数の人間が共同で何かをする場合、役割分担や意見の相違で揉めることは少なくない。そういうとき、決まったルールがあればそれでよいが、そういうケースばかりではない。仲介に入って、公平な裁定のできる第三者がいればよいが、そうでない場合は、力関係やその場の駆け引きで物事が決まっていくことが多い。そうなると、一旦、気を許すと舐められ割を食うことになる。それが1回で済めばよいが、相手がつけあがり増長すると、何回も同じことが繰り返されることになる。それでは、堪(たま)ったものではない。

 そういうときの考え方としてお勧めなのが、アメリカの政治学者アクセル・ロッドの唱える「しっぺがえし戦略」である。ゲーム理論の中に「囚人のジレンマ」というものがある。これは、2人の囚人の「協調」と「裏切り」をテーマとしたもので、結局、懲役を免れるために、それぞれが個人の利益を追求して裏切った結果、2人とも最も長い懲役になるという最悪の結果を招くというものである。アクセル・ロッドは、これを無制限に繰り返した場合にどうなるかという社会実験を行い、結論として「最初は協調するが、もし裏切られたら一度は制裁を行い、相手が改まれば再び協調するし、改まらなければ制裁を続ける」という「しっぺ返し戦略」が、人とうまく付き合う上で科学的に導かれる最適解としている。この考え方が、複数の人間が共同で何かをしようとする際、そのまま当てはまるかどうかはわからないが、一考に値する解決法であるように思う。黙って泣き寝入りしたままでは、相手はつけあがるばかりなので、1回は「しっぺ返し」をして、それ以上は根に持たないのが、人間同士のほどよいつきあい方のように感じる。

 サラリーマン時代を振り返ると、仕事の分担、要員の配属などで、社内で見解の相違があり揉めたことも幾度かあったが、それ以前の問題として、意図的に特定の人を仲間はずれにしたり、厄介な仕事を人に押し付けたり、困っているときにわざと無視したりするなど、意地悪に類する行為を平然とやってのける自分本位な人がいたのも事実である。そういう自分勝手が罷(まか)り通ったのではチームの和は保たれないことになってしまうので、そういう人に対しては、同じような誘いには乗らずきっぱり拒否するのは当然であるが、機会を見計らって、できれば、逆の立場になったときなどに、一度は、仲間はずれにし、嫌な仕事もやってもらうようにしむけ、困っていても手を差し伸べないという仕返しをすることが必要である。そうすることにより、相手の態度が改まれば、それまでのことは一切水に流し元通りの付き合いに戻し、改まらなければ改まるまで同じ対応を取り続けるのが、そういう人にお灸をすえるとともに、良好な職場環境を醸成するために必要のように思う。


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】