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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集 社史とともに歩む社員の人生

94.合点のいったあの言葉-その13- 「君子豹変す」(古代中国ことわざ) 

更新日 2026年5月29日


 この言葉は、中国『易(えき)経(きょう)』に由来する慣用句で、当初は「君子(人格や学識が優れている者)は、過ちを認め改めるが、それが豹の模様の様に鮮やかで分かりやすい」という良い意味で使われていたようである。しかし、今日では、政治家や権力者が都合が悪くなると、以前の発言と矛盾する行動をとるなど、態度を急変させることを、批判的に表現する場合に用いることが多いように思う。

 サラリーマン生活を通じて、先輩、同僚、後輩あるいは社外の人も含めて多くの人と接する中で、たとえば、対立する派閥のどちらかに所属するか態度を明らかにしなければならなかったり、昇給昇格によりポストが上がり立場が変わったりしたときなどに、この言葉が思い起こされる出来事に遭遇することが幾度かあった。特に、代々の経営トップを見ていると、トップになった途端に、自分勝手になったというわけではないが、言うことが違ってくるように感じたことは少なくなかった。経営トップは、後ろ盾がないので、最終的に自分一人の責任のもとで重要な経営判断をしなくてはならないことも多く、基本的に孤独なものである。部下の中には下心を持って近づいて来る族(やから)も少なくないと思われるので、ともすると、人間不信になり猜疑心が強くなるのもやむを得ないのかもしれない。従って、誘惑も多い中で、公私混同しないように、不公平にならないようにするために、身を律する必要性も出てくる。

 現役時代、数々の海外プロジェクトをまとめ、リーダーとして人望の厚い技術畑の人が社長になったことがあった。良かれと思う事は、厳しいことでもはっきりと伝え、ぶれることの少ない人だった。自分にも厳しく、お中元お歳暮の類は一切受け取らず、それでも送りつけられてきた場合は、花束を返すようにして、自分を律しているようであった。しかし、運が悪いことに、社長になった途端に社内不祥事が発覚し、業績が落ち込み2年連続で赤字に転落してしまった。何とか業績の回復を図ろうと、新規事業の開発、経費の節減など色々な施策を試みたが、目に見えた効果は得られず、やむなく固定費に手を付けることになり、人件費削減のための勇退制度が導入されることになった。それまで「経営は人なり」という人本主義を標榜(ひょうぼう)してきた社長だけに、「変わり身が早い、節操がない」と陰口をたたく人もいた。それでも、社長としては、「緊急事態なので、人本主義は一時棚上げする」と、必死で弁明していたが、「立場が変われば人変わる」と冷ややかな目で見る人も少なくなかった。

 結局、社始まって以来の人員削減策(リストラ)が全社を挙げて実行に移された。その結果、当然のことながら痛みを伴ったが、その社長の任期中に完全な回復とまではいかなかったが、何とか赤字は解消され、無事、次の社長に引き継がれた。それを見て、社員の誰もが「社長は退職するのか、会長になり院政を引くのか」身の振り方を固唾を飲んで見守っていたが、結局、その社長は黒塗りの車を降り、電車と徒歩で通勤し、一兵卒のエンジニアとして元の海外プロジェクトマネジャーの任に就くことを選択した。そんな社長の生きざまを見て、朝令暮改に映った方針転換も、社長の個人的な私利私欲からではなく、あくまで、組織の繁栄と存続を願っての、苦肉の策であったとそのとき合点がいったのを憶えている。


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】