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社史編纂・記念誌制作

風間草祐エッセイ集 社史とともに歩む社員の人生

98.思い至ったあの言葉−その2−「自ら鬼門を作るな」 

更新日 2026年6月29日


 退職後、コーカサス地方を旅したときのことである。確か、30人前後の大所帯のツアーであったが、訪問先がややマニアックな場所だったせいもあり、一人参加の旅慣れた人が多かった。成田から飛び立ち、途中ドーハで中継し、アゼルバイジャンに向かう飛行機の中で、隣に座った顎(あご)髭(ひげ)を生やした老人が、何とはなしに「どこかでお会いしましたね」と、前の席に座った若干その人より若い男性に声をかけると、「あなたは鬼門だから話したくない」というぶっきらぼうな声で怒鳴り返された。その声が大きかったので、一瞬、辺りに気まずい空気が流れた。言われた本人は、事の次第が分からないようで、キョトンとしていたが、2人は以前に同じツアーに参加したことがあり、その際、声を荒らげた片方の男性が気分を害したことがあったようであった。旅を重ねると、また同じ人と同じツアーに乗り合わせることは往々にしてあるものである。その後、2人は呉越同舟で、一週間余りの旅を続けることになったが、それとなく両名の様子を観察していると、お互い相手を避けているようで、旅の楽しさも半減したのではないかと思う。

 同じようなことは、チームを組んで仕事をすることがほとんどのサラリーマンの場合も、起こりえることである。振り返ると、仕事を進める過程で、役割分担などで揉めて、「金輪際(こんりんざい)、この人と組んで仕事はしたくない」と思ったことは確かにあった。また、自らの反省も込めて言えば、「あのとき、もう少し上手に振る舞っていればよかった」と後悔の念にかられたことも、無きにしも非ずであった。そのときは、二度とその人と顔を合わせることはないと思っていても、どういう巡りあわせか分からないが、後々、思わぬ場面で、よりによって同じ人と顔を合わせる羽目に陥るということは、案外あるものである。どんな職種でも、狭い世界で仕事をしていることに変わりないので、どこで同じ人と再会するかわからないものである。だから、自ら鬼門をつくると、そのときのしこりが致命傷となるケースも間々ある。そのときの不行き届きが、いつか巡り巡って、自分に災難として降りかかってくるということはあるものである。だから、望むべくは、仕事の途中で色々仲たがいすることがあったとしても、最後は、しこりを残さずに終えるにこしたことはない。

 組織は、生まれも育ちも違う人間の集まりで、同じ性格の人間など一人としていないし、置かれている環境も千差万別である。だから、たとえ、同僚の中に肌の合わない苦手な人がいたとしても、意識的に避けたり、毛嫌いしたりすることなく接することが大事である。そうすれば、意外と初め思ったのと違う好感のもてる側面を発見したりすることもあるものである。人を安易に類型化したり、画一的に考えたりして、先入観や予断をもって接するのも良い態度とはいえない。取捨選択せずに様々な人と遭遇することで、人を見る目が養われるというのも事実なので、好き嫌いや食わず嫌いは改めるのが賢い人との接し方であるように思う。心の襞(ひだ)が分かる人は、その心眼で見れば自然の摂理にかなった、相手の事情に配慮した接し方ができるはずである。その根底として、人間好きで、相手と同じ土俵に立って考えることを厭(いと)わない精神を養うことが何より重要であることは言うまでもない。


風間草祐エッセイ集 目次


※風間草祐
工学博士(土木工学)。建設コンサルタント会社に勤務し、トンネル掘削など多数の大型インフラ工事に関わる傍ら、自由で洒脱な作風のエッセイストとしての執筆活動が注目される。著書に『ジジ&ババの気がつけば!50カ国制覇—働くシニアの愉快な旅日記』『ジジ&ババのこれぞ!世界旅の極意—ラオスには何もかもがそろっていますよ』『サラリーマンの君へ—父からの伝言—』『ジジ&ババの何とかかんとか!100ヵ国制覇』『すべては『少年ケニヤ』からはじまった: 書でたどる我が心の軌跡』『人生100年時代 私の活きるヒント』『風間草祐エッセイ集 社会編: —企業人として思うこと—』など。「社史」を完成した企業の記念講演の講師も受託する。【※「社史」に関して言えば、社員の仕事というものは必ずチームワークなのだから、協調性が保たれてこそ良い仕事ができるわけである。しかしメンバー各々は各々の考え方や価値観をもっているので、それがチームワークを阻害する場合は何らかの工夫が必要になるという話。そして一つひとつのの「達成」こそが小さな思いやりと協調の大切さを自覚させる機縁となって、人は成長していくのである。そのことが自ずと伝わる社史こそ良い社史であり、そういう会社こそ良い会社なのである。】