社史本来の意義は非常にハイブローなものであり、実益に直接結び付かないところに本領があるとするのが当社の基本的スタンスであるけれども、社史制作の結果として生まれるビジネス上の「実益」も確かに考えられ得るのであり、社史を発行する企業がその点に関心をもつのは当然のことであろう。
そこで今、その意味において、社史制作の結果として生まれる「戦略的」効果をピックアップしてみると次のようなことになろう。
●立派な社史を作って頒布することにより、企業の体力、安定感を広くアピールすることができる。これは最も通俗的な感覚ではあるが、通俗的であるがゆえに戦略的には無視できないと考えられる。
●特定の事業に長い歴史と伝統を有する企業であれば、その間に蓄えられたノウハウ、情報、経験の「量」の豊かさを「質」の深さ・高さとして表現することにより、後続他社との差異化を社史によって改めて図ることができる。事業歴の長さというどこまでも逆転不可能な優位性を、「社史」によって確保・定着・普遍化させることが期待されるのである。
●逆に事業歴の若い企業であれば、先行企業にキャッチアップするために挑んだそれまでにない試みやそのための柔軟な発想、後発の不利を跳ね返した優れた技術などに言及し、「後発」というデメリットを一気に「先進」というメリットに逆転する試みを社史の中で大いに展開することができる。
●特定の分野にオンリーワン的な技術を有する企業であれば、技術開発、市場開拓の持続的な取り組みと成果を強調することにより、一つ一つの技術を超えて、他の追随を許さぬところまで強固に独自の基盤が築かれていることを取引先や投資家に印象付けることができる。
●特に長い歴史や特別の技術・業績のない企業であっても、キラリと光る持ち味を魅力的に表現することによって、顧客や投資家から注目されるきっかけづくりとすることができる。
等々、いわば社史のPR誌化ともいえる意義付けであるが、それも社史という「歴史書」であればこそ可能になるPR誌化であって、この面への関心が、逆に、社史の本質的意義を理解していくためのよすがとなり得るかもしれない。