資料収集がいかに重要かは、どんなに強調してもしすぎることはありません。企業の担当者にとってはライターの力量が気になるところでしょうが、ライターからいうと、資料がどれだけあるか、企業の担当者が資料収集にどれだけ積極的に動いてくださるかが非常に気になります。
企業の全体像を理解するために、なるべく早い段階でご用意いただきたいのが基礎資料です。中身はさほどこだわりません。事業内容や企業の沿革がわかるものなら何でもOKで、入手できるものを片っ端から集めていただくという感覚でけっこうです。むしろ「質より量」が重要で、最低でも簡易年表がつくれるぐらいの分量がほしいところです。
基礎資料が揃うと、ライターにも概ねその企業の特徴や魅力がつかめてきます。原稿を書くときどこにポイントを置くか、読み手にどうアプローチするかが提案できるようになるので、この段階で改めてライターと意思の疎通を図り、最初に企画したとおりでよいのか、原稿のスタイルや方向性は間違っていないかを、再検討していただくといいでしょう。
資料がどのぐらい集まった段階で執筆をスタートさせるかは、ライターによって異なりますが、いずれにしても資料収集は執筆に先行し、執筆が始まってからも資料収集は続きます。
基礎資料が揃ったあとは、基礎資料で欠けている部分、基礎資料だけではわかりにくい部分を関係者の知識や記憶で補っていただくヒアリング取材が始まります。また、企業にとって重要な転換点になった出来事については、もう少し詳細な資料がほしいところです。ここへ来ると「量より質」で、誰から(どこから)、どんな資料を、どういう方法で引き出すかの判断が重要です。社内事情に詳しい企業担当者と、ある種の勘や嗅覚がはたらくライターが力を合わせて乗り切る共同作業です。
資料収集は地味で根気のいる作業ですが、社史の完成度に多大な影響を与える大事なプロセスです。社史の制作会社の中には「短期納品」「手間いらず」をセールスポイントにしているところもありますが、質と引き替えでは割に合いません。むしろ最初に「資料収集は大変な作業です。覚悟してください」と告知する会社の方が良心的だと思います。
(本社 スタッフライター 安田等)