ある商事会社が50年史の前段階の稿本として45年史を作るということがありました。
全国数カ所に支店があり、それぞれに歴史があるので各支店を取材に回ることになったのですが、ひょっとすると支店訪問時に付近にお住まいのOBの方にお話を聞くことになるかもしれないので、全国支店分まとめてとりあえず軽くご挨拶の電話を地方のOBの皆さんに入れました。
各支店訪問の予定日時は流動的で、直前まで調整できない状況だったので、支店に着いてからOBの方々に電話を入れ、その一両日中にお会いできる方に限って取材させていただき、45年史をまとめることができました。お会いできなかった方にも次回、50年史制作の時に機会があれば協力をお願いするかもしれない旨、電話等で連絡したつもりでした。
ところが、そのフォローの連絡ができないままになってしまった人があり、それを忘れて5年後に取材協力の電話を入れたところ、断られてしまいました。
最初のご挨拶の時には非常に親切な印象の方だったのに、どうしてこんなに気乗りがしない口調なのだろうと不思議でしたが、話しているうちに思い当たったのが前回のフォロー忘れでした。「前にお電話でご協力をお願いしたまま、それっきりになっておりましたでしょうか」と尋ねたところ、そうだ、とのお答えに、電話の前で平身低頭ひたすら謝りました。
けれどもその方の態度が変化することはありませんでした。
こちらが考えていた以上に、そのOBの方は昔の話をするのを楽しみにしておられたのです。
誠に申し訳ないことでした。言葉を尽くしてお詫びしましたが、その方の口調は最後まで沈んだままでした。
社史づくりに関わるライターや編集者は、そのときの私のように、錯覚しがちです。取材は、他人にこちらの仕事に協力してもらうのだからいくらかご迷惑をかけることであり、それがボツになればご迷惑をかけなくてすむのだと……。
しかしそれは本当に勝手な判断なのです。
モーレツ社員として輝いた日々の話、苦労話や面白いエピソード、仲間の思い出……そのOBの方が取材を楽しみにしておられた気持ちを考えると、今でも自分の至らなさが悔やまれてなりません。
これから社史を作る方々のご参考になればと記しました。
(本社 ライター 匿名希望)