社史や記念誌では一般的に多かれ少なかれ写真が使われる。歴史記述の中に往時を偲ぶよすがとして古い写真、懐かしい写真が効果的に挿入されることも一般的だが、社長など法人トップによる巻頭挨拶や、現況紹介ページ、周年記念式典や祝賀会写真、記念対談や記念座談会など、社史や記念誌を作るにあたって新規に撮影され、掲載される写真も多いのである。
こうした新規撮影の写真というものは、プロカメラマンを起用して撮ることもあれば、社員、職員などが撮るとか、制作会社の社員がサービスで撮るとかいう場合があるが、牧歌舎が創業した30年前から考えると、この写真というものにも大きな技術の変遷があったことが確認できる。
平成時代の初期は、まだカメラといえばフィルムカメラであって、撮った写真のプリントやリバーサルフィルムを網点化し、印刷版にしていたのであった。
2000年代に入ると、写真は徐々にデジタル化されてくる。フィルムに変わってイメージセンサーが従来フィルムがあった位置に配置され、多数の細かく分けられた四角の仕切りごとにレンズから入ってくる光を電気信号に変えて保存し、そのデータを復元装置で復元して印画紙に焼き付けるということが行われるようになる。
社史や記念誌の印刷方式も写真製版が普通になってきていたので、文字部分と写真部分をそれぞれ版下として組み付けて写真製版していたのだが、やがてCTP(Computer to Plate)という製版の完全電算化になると、デジタル写真のデータそのものを印刷データとする技術が進み、Photoshopなどのソフトが、開発、進歩していった。
デジタルカメラの写真は、当初は画素数が少なくフィルム写真の品質には及ばない玩具のようなものから始まったのだが、やがて数百万画素のものが現れると、小さく印刷するならフィルム写真と大差ない品質の印刷ができるようになる。フィルムにとって代わったイメージセンサーは最初は指先ほどの小さいものだったが、やがてAPS(Advanced Photo System)というかなり進んだ大きさになるとさらに画素数が増えて、こうなると印刷スペースが小さい写真や中ぐらいの写真ではフィルムプリントより断然便利となった。
そしてさらに数年するうち、センサーサイズがフルサイズのカメラが現れる。フルサイズというのは、フィルムカメラの標準サイズのフィルムとほぼ同じ大きさのイメージセンサーということであり、これが今でも主要カメラメーカーのフラッグシップ機といわれるプロ仕様の最高機種に使われるようになる。ニコンで言えば、フルサイズの一眼レフ「D3」が2007年11月に発売された。
以後、十余年にわたりフルサイズの一眼レフがプロ仕様ということになり、各メーカーとも2〜3年ごとに機能を進歩させた新機種を発表し、ニコンでは現在「D6」が最新型である。
ところがここにきて「ミラーレス」という大変化の波が起こる。
一眼レフというのは、レンズからカメラに入った被写体像がセンサーの前にある鏡で上方に屈折し、それがまたプリズムで屈折したものをファインダーで見て確認し、そのうえでシャッターを押すと一瞬鏡が跳ね上がってその間にシャッター幕が開いてイメージセンサーが露光され電気信号になり保存される。この機械的な仕掛けが1000分の1秒の狂いもなく数十万回繰り返しが可能であるというとんでもない精密堅牢さであって、だからニコンのフラッグシップ機はアメリカ航空宇宙局からスペースシャトルでの記録撮影用カメラに採用されたりしたのである。極端に微細な部品が極端に堅牢で極端に正確な働きを極端な耐久力で維持するように作られたのがプロ用機であるから、価格はレンズ込みでだいたい100万円以上するのが普通だった。
これが今、「ミラーレス」機にとって代わられようとしているのである。
ミラーレス機は文字通りミラーがない。センサーの前にシャッター幕があるだけである。ファインダーは被写体そのものを屈折光で見るのでなく、センサーで電気信号化された像を見る。シャッターを押すと設定した時間だけ光によって生まれた電気信号が保存される仕掛けである。
ミラーがなくなったことで、カメラの構造は大きく簡素化され、またファインダーで見たままのものが撮影されるので失敗というものが基本的にない。従来「ミラーショック」と言われていたミラーの跳ね上がりによるブレもない。
ということで、100万円していたプロ用機が今はその何分の一かで買えるようになり、画質も格段に向上した。またPhotoshopのような現像ソフトも進歩して、色合いや形まで自由に変えられるから、もはや社史、記念誌用の新規撮影をするのにプロカメラマンは必ずしも必要不可欠ではなくなってきているのが現状である。
当社は社史や記念誌の原稿は専門ライターより社内で作るのがベストだということを長年説いてきているが、掲載写真や、さらには付録の動画も、内部の人が自ら撮影することで「手作り」度が上がっていくことを期待している。(製版担当:T.T.)