自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

社史編纂・記念誌制作

社史職人からのメッセージ

職人であり続けよう

 40年以上も前のことですが、あるアパートに住んでいたころ、隣に子犬を連れた老夫婦が引っ越してきて、もう80歳は超えているだろうと思われるおじいさんが、その辺にあった板切れを何枚か鋸で切り始めました。2〜3日してから見ると、小さいけれども姿がかっちりと整って美しく、しかも頑丈そうで非の打ち所のない見事な犬小屋が出来ていました。私が目を見張って「これは、すばらしいですね!」と讃嘆しますと、おじいさんは小さな声で「本職やさかいな……」と答えました。聞くとおじいさんは長年にわたって家を建ててきた大工さんで、家を建てるセオリーで犬小屋を作ればこうなるのだとのことで、それ以後、私は「本職」の「職人」にあこがれ続けてきています。

 また、団地に住んでいたころに入居者総出で団地の草取りをしたことがありました。団地の塀際の草をみんなで引っこ抜くのですが、私とコンビになったのは長年農業をやっていて最近都会に出てきたという人でしたが、私が草を抜いた所とその人が抜いた所では結果があまりにも違いました。私がやったところはただ力任せに抜き散らしただけのものでしたが、その人の仕事したところは、抜き残しとか、根が残っているようなところは一切なく、ふっくらと綿のように地面がきれいになっていて、いかにもここに何か作物を植えて水をやれば育ちやすそうな苗床のような仕上がりで、それも、同じ時間内に私の倍ほどの面積を片付けていて、まったく舌を巻いたものでした。

 一つのことを長年心を込めてやっていれば、このように正しいやり方(セオリー)が身につくのです。これを私は、物を作る人の「職人の技」と思います。

 全てが機械化、IT化されていく中、個々人の「職人の技」は見えにくくなり、機械やITの情報化度がモノづくりを制するという考え方が主流になってきています。しかし、その中でも、「職人のセオリー」「職人の技」は生き続けます。むしろ、そうした中にあってこそ、セオリーと技へのこだわりを貫くことが必要ではないでしょうか。

「道具」の機械的進歩の速さに人間が幻惑されて、何が人間にとっての本質的価値であるかを見失いかけているのが現代という時代ですが、実は、ここにこそ「職人性」のチャンスがあると思われます。人はどこまで行っても人であり、人が求めるものは人にしかわかりません。そして人が求めるものは「不易」と「流行」の間を行き来しながら変化し続けるのです。これを察知し、着実に対応できるのが「セオリー」と「技」を備えた「職人性」というものなのです。変化が速ければ速いほど人々はそれに気づきませんが、本当の職人はにんまりすることでしょう。

「職人気質」は決して死語ではなく、それどころか、実は現代に求められる豊かさを底深く秘めているキーワードであることを、私たちはしっかりと心しておきましょう。

(牧歌舎 社長)

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