自分史と社史をからめた作品の代表的な例が、日本経済新聞紙上で連載されている「私の履歴書」です。政財界の著名人の出生から今日までの軌跡を綴ったものですが、半世紀以上も読み継がれている長寿企画として読者の支持を得ています。
2000年から5年間にわたって放映された、NHK総合テレビのドキュメンタリー番組「プロジェクトX?挑戦者達」と、脳科学者・茂木健一郎をパーソナリティに起用した「プロフェッショナル仕事の流儀」も高視聴率を誇っています。
いずれも産業史の裏面を活写した企画ですが、華々しいサクセスストリーではなく、成功に至るまでの失敗や挫折、苦悩が描かれ読者や視聴者に感動を与えています。元ジャーナリストとして国内外の多くの企業と経営者に接してきた筆者も、技術開発や企業の盛衰を数多く取材する機会に恵まれました。
熾烈なサバイバルゲームに勝ち残るためには、経営資産の有効活用も大切ですが、組織を牽引するリーダーの資質が勝敗を左右する要因になります。創業経営者にはカリスマ的光彩を帯びている人たちを多く見かけます。起伏の激しい道程を歩んで来られた経営者ほど、風貌や語り口に人を惹きつける魅力があります。
精緻な記録を要求される社史には、創業者の個人的描写は敬遠されがちですが、自伝風社史なら社史には書けない行間まで著述することが可能になります。さらに文体を三人称にすれば一人称では及ばない領域まで表現することが容易になります。企業を動かしているのは人であり、人は人に一番興味を抱きます。経営者の自伝風社史にすれば、社史では得られない広範囲な読者を獲得することができます。
混迷の時代を生きる今だからこそ、経営者の志の有無が生存競争の帰趨を決すると言われています。創業者の起業精神が社内の隅々にまでDNAとして継承されているか否かが問われています。社史編纂の新たな形態として「自伝風社史」の制作をご検討いただければ幸いです。
(大阪営業所所長 自伝風社史ライター 彦阪 順)