119. 心の底から|牧歌舎随々録|エッセイ倶楽部|自費出版-社史・記念誌、個人出版の牧歌舎

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エッセイ倶楽部

牧歌舎随々録(牧歌舎主人の古い日記より)

119. 心の底から

 支配者は被支配者を「心の底から」支配することを求め、被支配者は「心の底から」支配されるのである。宗教でも、軍国主義でも、身分制度でも、どんな不条理で不合理な思想でも、「心の底から」そうした価値観の中に生かされるのが人間というものである。そうなると、そのような不条理不合理を脱するには、個々の人間の生活実感などに期待していたのではどうにもならない。主君のために、会社のために、どんな犠牲を払ってもつくすことに無上至上の価値を置いている輩は、どうにもできるものではない。そういう個人的姿勢がどれほどの害悪を結果として人間社会に及ぼすか、それを分からせるには地道で辛抱強い議論と説得が必要だ、といってしまえばそれまでだが、いくら議論したところで当人が理よりも利ゆえにその道を進むことに思い定めている場合もあって、ことはそれほど単純ではないのだ。
 元来、価値観などといっても、その実はわが身の物質的利益を確保するために最もつごうの良い思想を功利的に採択しているにすぎない場合が多い。ある宗教団体の出版物の販売で儲ける書店がその宗教団体の熱心な信者であるというようなことである。別に新興宗教でなくともよい。従来の仏教でも、その信徒でなければムラでの人間関係がうまくいかないから信徒になっているだけの人間だって無数にいる。天皇を頂点とする権威のピラミッドの中で自らが望ましい特権的権威を獲得していると自己認識する人間は天皇制を支持するのである。このような宗教者、天皇制支持者も、現象的に、また主観的には「心の底から」の純粋な思想の持ち主なのである。

1999.12.14