日本の軍隊においては、上官の命令は天皇の命令であるとして絶対服従すべきものとされた。上官が何を命令しようと、それは天皇の命令ということになる。そうなると、命令した者には最終的な責任はないことになる。さらに突きつめると、無責任に命令を出してよいというシステムということになる。
じっさいには、命令一般は「天皇の命令」であっても、作戦上誤った命令とか、人道に反するような命令はそこから排除され、「上官」個人の責任とされるのであるが、そうする者は命令を受けた部下ではない。
要するに正しい命令だけが天皇の命令ということになるから、それが正しい命令かどうかを吟味することなくやみくもに「天皇の命令」として押しつけるのは不合理である。しかし日本の軍隊の最大の特徴は不合理が大きな支配力をもっていたことであって、兵隊はとにかく不合理に馴らされるように教育されるのである。そして多くの者はそのことに酔ったのである。まことに、不合理は人を酔わせる働きをするのである。
2000.08.27