社史の最も緊密な時代背景は経済環境である。その意味で、景気、不景気、GDP、賃金などの事象は把握しておかなければならないのだが、アベノミクスは失敗だとか成功だとかの議論はじつに厄介である。社史を書くこと自体が政争に参加することになったり、経済学者や専門家の間で分かれる経済分析のどちらかに加担することになったりするからである。
統計不正の問題は大きな問題であるはずなのだが、政治的圧力がかけられた結果0.何パーセント上がったとか下がったとかいうのではもうそれだけで数字オンチは辟易してしまい、どうでもいいような気になってしまう。そこが怖いところなのだが、もう少し素人にもわかるようなはっきりした話にならないものかと思っていたところに出てきたのが「エンゲル係数」の話だ。これなら、中学校の時に習って「なるほど」と思ったもので、分かりやすい。
つまり、いわゆるアベノミクスが始まって以来、家庭のエンゲル係数は上がり続けてきており、国民生活が苦しくなっていることを証明しているのである。実質賃金がどうこうというよりはるかに分かりやすい。
これは、去年の1月に小川参議院議員が予算委員会の質疑の際に指摘したものだが、このとき安倍首相は「それは外食が増えたり加工食品の利用が増えたりという生活習慣やライフスタイルの変化によるもの」と答えたようだが、何のデータも示さないいい加減な答弁だったとしか言いようがない。
そのうえ、最近では総務省統計局が従来のエンゲル係数に代わる「修正エンゲル係数」なるものを発表していたことがわかり、話題を呼んでいる。これは、家計は「いわゆる消費支出だけでなく住宅の取得や将来に備えた貯蓄など、消費以外の金融資産・不動産資産の形成等にも支出されるから、食料支出が消費支出だけでなくそうしたものも含めた可処分所得全体に対して占める割合を今後は『修正エンゲル係数』という指標として出していく」というものである。これで当分はエンゲル係数が抑えられると考えたもののようだが、遡って計算すれば推移はほぼ同じだから、アベノミクスで係数が上がったことに変わりはないのだが数字自体は小さくなるから風当たりが弱くなるとでも考えたものか、誰も気が付かなければ儲けものとでも考えたものか。
そんなことより、食料支出割合が増えたの主因として誰にも分るのは、「異次元の金融緩和」で円安になり、そのため輸入食糧原料が高くなったためだということだ。これは実質賃金の低迷に直結するもので、エンゲル係数が上がるのも実質賃金が下がるのもアベノミクスによってつくられた円安によるものだ。円安は株価を高くして安倍首相を浮かれさせていたが、それは同時にエンゲル係数を上昇させていたわけである。
安倍首相はいつも、「失業率が下がって就業者数が増え、総雇用者所得も増えた」ことをもってアベノミクスが成功したとアピールするのだが、それでもGDPは伸びず、エンゲル係数が上がっているのは何を意味するか。
企業は設備投資など生産性を上げる努力は積極的に行わず、今のままで儲かる水準の低い人件費を設定していて、そこに生活が苦しくなって働かざるを得ない人がどんどん追い込まれてきただけのことだ。つまり人々の労働力は、生活を苦しくさせられることにより買いたたかれたのだ。総雇用者所得の増加よりも、食料品を始めとする物価高の総額のほうが大きかったのである。
2019.3.5