ある原稿への読後感
I様の原稿を拝読しました。
いまだに十分に分析されつくしてはいない太平洋戦争を基に、日本人とは何かを省察し、自分としての結論を得ようとする真摯で意欲的なレポートで、引き込まれながら読みました。
左とか右とかのイデオロギーとはなるべく無関係に、フラットな視点で、考え、思ったことを率直に書いているので、読むほうも素直に読みやすく、違和感なく読み進められ、勉強にもなるので、多くの人に受け入れられる良い本になるものと思われます。
統帥権はもともと国内で私戦を起こさせないためのものだったとか、政党が勢力拡大のために軍部にすり寄ったので議会政治が変になったとか、あまり語られない、当時としての視線がよくヒントになっていて、新鮮です。
戦後生まれの人は、小さい時から「日本はアメリカに負けた国」「アメリカはとても進んだ国」という基本知識から思考を組み立てながら育ったのですが、戦前の人は「日本は戦争に負けたことがない国」「すばらしい歴史をもった世界一素敵な国」という国家観の下に成長し思考や人格を形成したのですから、全然土台が違うところから歴史を之分析する必要があるわけですね。
またロシア革命というものが世界にどう影響したかも今からはおそらく想像できないのではないでしょうか。共産主義は当時の若い世代で世界的に大流行であり、アメリカでも先進思想として多くの優秀な学生たちが競って勉強したり活動したりして、そうした経歴を持つ官僚たちが戦後保守勢力から弾圧されたという経緯なども今ではあまり知られていません。
歴史というのは「虚心によくよく見る」ということがとても大事で、そうでないと悪いヒントや間違ったヒントになってしまう、それを防ぐには自分の今の感覚で素直な感想をもつというところから始めて、疑問点を追求していくしかないと思いますが、I様のレポートはそういう意味でとても好感が持て、「従軍慰安婦」でも「南京大虐殺」でも、とても自然な感想が読んでいてしっくりくるのです。南京大虐殺の被害者数について「中国の主張は勿論30万人。戦後の中学の教科書では10万人。しかし少し冷静なことを言わせてもらえば、犠牲者数千から1万人でも立派な大虐殺である」には自然に同感できました。
またI様のお母さま同様、私の叔母(満州で教員をしていた)も「日本が戦争をしたのは、仕方がなかったんよ、本当に仕方がなかったんよ」と、こちらが聞きもしないのによく言っていました。ちなみに私の両親は戦時中満州に居て、父は戦後ロシアに抑留されて3年後に帰ってきて私が生まれることになりました。私には当時乳幼児の兄と姉がいたのですが、母が満州から引き揚げる途中で二人とも栄養失調で亡くなっています。
長くなるのでここで止めますが、このレポート、若い人にはもちろん、どんな日本人にも、未来をよく考えるうえで、読んでもらいたい作品と思います。
2021.某月某日